乙女ゲームに潜む“ジェンダー規範”という問題 『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズと海外の研究事例から考える

乙女ゲームに潜む“ジェンダー規範”問題

 『アンジェリーク ルミナライズ』(コーエーテクモゲームス/ 2021年発売)は、別シリーズとして展開された『ネオ アンジェリーク』を除くとシリーズ作品として18年ぶりのリリース(※1)ということもあり、ゲーム専門誌やサイト、SNS等で大きな注目を集めた。『ファイナルファンタジー』や『マリオ』シリーズなどのビッグタイトルとくらべると、プレイヤーの層も数も限られる乙女ゲームというカテゴリーにあって、一般ゲーム誌においてもこれだけ注目を集めたのは、『アンジェリーク』(光栄/1994年発売)が「最初の乙女ゲーム」(※2)としてしばしばこの分野の代名詞として想起されることも一因だろう。近年はアジア諸国や英仏語圏でも制作されるようになってきているものの、乙女ゲームの歴史はおおむね初代『アンジェリーク』が発売された1994年以降、国産タイトルを軸に形成されてきた。

『アンジェリーク ルミナライズ』プロモーションムービー

 一方で、昨今のゲーム業界では珍しく国産コンテンツが国際的なスタンダードであり続けているにもかかわらず、(これはゲーム研究全般について言えるが)乙女ゲームの学術的な検討もまた海外主導でおこなわれてきた。こうしたことから本稿は、国内における今後の乙女ゲーム研究の足掛かりとなる基盤を提供することを念頭に、発展的な考察よりもできるだけインフォーマティヴな説明に重きをおいている。また主な読者として乙女ゲーマーのほか卒論や修論でこうしたテーマをあつかいたいと考えている学生を想定し、学術用語はできるだけ平易に言い換えてある。この分野にはじめて触れる方も、どうか構えずに読みすすめていただきたい。

 最初に「そもそも乙女ゲームとは何か」について、これまでの言説をもとに整理しておこう。前述のとおりアカデミックな議論は基本的に英語ベースでおこなわれており、そこでも定義についての言及がみられる。国内外を問わずしばしば参照されるものとして、2009年に韓国のメディア研究者・Kim Hyeshinが発表したこの分野における最初期の(そして数少ない)査読論文があるが、その説明を要約すると「女性向けゲームとは文字どおり女性のためのゲームであり、女性プレイヤーのために制作されていることと、女性向けとして宣伝・販売されていることという二つの条件をみたすもの」となる(※3)。Kimがあつかうのは『アンジェリーク』をはじめいずれも現在乙女ゲームとして認知されているものばかりだが、彼女は乙女ゲームではなく「女性向けゲーム」という言葉を使っており、この定義だとBLゲームなども含まれうる。

 他方、PS Storeや任天堂などプラットフォーム側の視点では、より恋愛要素、とくに異性愛に重きをおくものとして説明される。前者は「プレイヤーが⼥性主⼈公となり、攻略対象である男性キャラクターと恋に落ちる(※4)」、後者は「主人公の女性がNintendo Switchの中で織りなすさまざまな物語 / そんな女性向け恋愛シミュレーションゲーム(※5)」であるとしている。

 しかし考えてみればこれはやや奇妙だ。「アクションゲーム」や「パズルゲーム」が何か、プラットフォーマーのサイトやゲーム雑誌でわざわざ説明されることは稀だろう。これらのジャンルはさらに「アクションアドベンチャー」や「落ちものパズル」といったサブジャンルに分かれているが、そうしたジャンル名自体がゲームの内容を示すものとなっている。乙女ゲームもまた「ビジュアルノベル」や「恋愛シミュレーション」などにタイプ分けが可能だが、それらは『かまいたちの夜』などのサスペンスや美少女ゲームにもあてはまる。

 端的に言って、乙女ゲームというカテゴリーはそもそもプレイジャンルとしてゲーマー側との暗黙の合意のもと自然に形成されたものではなく、“制作・流通側主導で広まっているマーケティング上の区分”であるという色彩が強いのである。上で引用したものや乙女ゲーム専門誌の記述などを総合すると、業界における緩やかな認識として、“乙女ゲームとは制作・供給側が意図的に「女性ゲーマーが異性愛者の女性主人公視点で男性との恋愛要素を楽しむ」ことを主な目的として制作したゲーム”であると要約できる。こうした制作側の意識の重要性はたとえばホラー映画においても指摘されており(※6)、「理想的な観客/ゲーマー」(※7)に向けて制作されているという点で共通している。すなわちゲーマー側にはメーカーと専門誌などの共犯関係のもと作品に込められた“コード=規範性”を読み取り、制作側の意図通りに反応することが求められているのである。

 ではその規範性とは、具体的にどのようなものなのだろうか? 近年、コンコルディア大学のSarah Christina Ganzonが2018年に発表した論考「Making Love Not War: Female Power and the Emotional Labor of Peace in Code: Realize—The Guardian of Rebirth and Princess Arthur」(※8)や、ロスキレ大学のSusana Toscaらが2020年に上梓した「Transmedial Worlds in Everyday Life: Networked Reception, Social Media and Fictional Worlds」(※9)におけるいくつかの作品分析のように、一線級のゲーム研究者たちもこうした問いに取り組み始めているが、それ以上に国内外問わずよくみられるのは、学生の学位論文や学会発表の予稿である(そのため本稿も読者としてそうした学生たちを想定している)。とくに前者はその特殊な公開方法(原則的に現地の大学図書館で直接確認しなければならないことが多い)のために具体的な内容の確認が難しいが、優秀論文に選ばれて紀要に掲載されるなどして公開されているものある。確認できるかぎりではそうした国内の先行研究(※10)が共通して産業やプレイヤー研究に主眼をおく一方、国外ではジェンダー問題が中心になっている。乙女ゲームはそのほとんど(オリジナルタイトルだけで優に数百タイトル、移植版やファンディスクなどを含めれば四桁に達する)が日本製であるため(※11)、これはただちに「日本の」ジェンダー問題へと読み替えられる。

 国内では書き手自身も含めたプレイヤーの受容論や外側の産業構造に関心が集まる一方、国外からは日本製ゲームにおける女性の位置づけに対する異議申し立てがおこなわれるという構図には、作品に対する両者の批判的距離のとりやすさが関係していると思われる。一例として『アンジェリーク』シリーズとならぶ人気シリーズである『ときめきメモリアル Girl’s Side』(コナミ/2002年〜、以下TMGS)についての海外ゲーマー視点の論考をもとに、乙女ゲームが構造のレベルで内包する規範性について考えてみたい。

ときめきメモリアル Girl’s Side Premium ~3rd Story~ プロモーションムービー

 以下で参照するのはいずれも欧米の院生によるものだが、それぞれ他の研究でも引用されている修士論文、査読論文、ポスト査読論文(※12)と、学術的な信頼度が比較的高いものを選んでいる。そのうちRoseanne TompowskyとFranziska Siewertは日本(語)学科出身であるため、言語面でのアプローチがおこなわれている。

 まず前者の論考(※13)は、日本文化における言葉遣いの性差を『TMGS 3rd Story』と美少女ゲーム『ラブプラス+』の比較によって浮き彫りにすることを試みている。そこでは近年の変化も言及されているが、依然としてゲームの中で日本社会における理想的な男女のステレオタイプが再生産されていることが指摘されている。女性だけでなく乙女ゲームに登場する男性もまた「断定的な物言い」や「省略した言い方」などのステレオタイプを適用されているが、「謙虚で従属的」という「適切な」女性像を規範として課されている女性キャラクター=ゲーマーのほうがより不利な立場にあると言える。

 後者(※14)はこうした言語使用が女性ゲーマー自身の規範性への従属を強化してしまうことを、別の角度から強調している。興味深いことに、Tompowskyが示したような理想的な女性に求められる丁寧な言葉遣いが、初代『TMGS』において逆説的に機能する場合があることをSiewertは指摘する。それが顕著に現れるのは男性キャラを呼ぶときで、いきなり馴れ馴れしくすると相手からの評価が下がるが、あまり他人行儀でも距離を詰めることができない。これと関連してもう一つ重要な指摘がなされている。すなわち年上のキャラクターに対する敬語もまた、日本社会の規範の再現となっているのだが、彼女自身が述べているようにこうした細かいニュアンスは、海外の研究者の手に余る面もある。いずれにせよこうした表現の使い分けにはそれなりの知性が必要とされるが、それも進学や将来のキャリアのためではなく、ただ男性キャラの高評価を得るためだけのパラメータに過ぎない(金銭についても同様)ことは、ゲーム内でほかに使い道がないことからも明らかである。

 彼女はファッションや過剰な恋愛要素などを女性的要素としてもちこんだ結果、それらがゲーム内に依然として残るジェンダー的偏見の一因となっていることにも言及している(とくにゲーム内にしばしば登場する主人公の弟が彼女の恋愛事情のみを心配していることは、その顕著な例と言える)が、これについてはグリフィス大学のTina Richardsが詳しく説明している。



インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる