“PS5の看板タイトル”の名をほしいままにした、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』の進化と少しの懸念
開発体制に至るまで進化したインソムニアックゲームズと、PS5への懸念
ここまで書いた通り、グラフィック、ゲームプレイ、そしてストーリー面に至るまで見事に進化を遂げた「ラチェット&クランク」を提示して見せたインソムニアックゲームズだが、そのアップデートの考え方はその労働環境にも表れている。本作に関わったゲームデザイナーのGrant Parker氏やシニアアニメーターのLindsay Thompson氏は、本作の制作がクランチ(いわゆる長期間に及ぶ強制的な長時間労働)をすることなく完了したことを自身のtwitter(*1,2)で投稿しており、近年のビデオゲーム業界で大きな問題となっている劣悪な労働環境についても改善を試みたことが明らかになっている。ビデオゲームを完成させるためにはクランチはやむを得ないという考えがある一方で、インソムニアックゲームズがクランチをすることなく本作を完成させ、かつ本稿執筆時点で今年トップクラスのメタスコアを獲得するほどの高評価を獲得したという実績は業界全体にとっても一つの希望となるのではないだろうか。
一方で、本作はリリース時点において、動作の不安定さという問題を抱えてもいた。 筆者によるプレイ中も複数回エラー落ちの場面に遭遇することになり、時にはせっかく進めたセーブデータが保存されていないということもあり、多くのストレスを感じることになった。
現時点では、リリース以降に頻繁にパッチが配信され、修理後に改めてプレイした際にも特に問題なく遊ぶことができた。今後同作を遊ぶ方は、ぜひオンラインパッチを適用してプレイすることをお勧めする。
そんな同作だが、一方で「これが次世代機の限界なのだろうか?」という疑問を感じることもあった。もちろん、『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』はシリーズ最新作として文句無しの傑作である。恐らく年末のゲーム・オブ・ザ・イヤーにおいても頻繁にその名前が挙がることだろう。だが、あくまで本作はシリーズにおける正当進化であり、(複数のステージを同時に描写するなど)次世代機だからこそ実現出来ると思われる機能も盛り込まれているとはいえ、予想できる進化の範囲内の作品であるというのも正直なところだ。そもそも今はあくまで次世代機への移行期間であり、来年にかけても多くのビッグタイトルが「現世代機と次世代機での同時リリース」を予定している。そして、その中には『ゴッド・オブ・ウォー:ラグナロク』や『Horizon Forbidden West』、『グランツーリスモ7』といった次世代機を象徴してもおかしくないビッグタイトルも含まれている。だが、筆者個人としては、現世代機を代表する作品は『The Elder Scrolls V: Skyrim』や『Grand Theft Auto V』ではなく『Red Dead Redemption 2』や『God of War』といった作品であると語りたいし、それぐらいの進化を次世代機の作品にも期待したいと考えている。だからこそ、これが限界だとは思いたくない。
ネガティブな内容が続いたので改めて書いておくが、『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』はもしあなたがPlayStation5を手に入れたら真っ先に遊ぶべき、今年を代表する傑作である。そして、まだリベット&キットが物語に合流したばかりであるように、本作が来る次世代機のシーズンの始まりであり、これから先に待っている、新たな刺激に満ちた世界を心から楽しみにしている。
〈Source〉
*1:https://twitter.com/GrantPDesign/status/1402325020890652672
*2:https://twitter.com/Binzimation/status/1402327290722193414
*3:https://blog.playstation.com/2021/06/02/hermen-hulst-qa-whats-next-for-playstation-studios/