『Marvel's Spider-Man: Miles Morales』ゲームディレクターに聞く“映画的なゲーム”の作り方
2018年に発売され、世界的な大ヒットを成し遂げたゲーム、『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』。プレイヤーがスパイダーマンになりきって、ウェブ・スイングでニューヨークの空やビルの谷間を縦横無尽に移動したり、様々なアクションでヴィラン(悪役)たちと戦えるという、「インソムニアックゲームズ」が開発した画期的なゲームシステムが大きな話題となった。その続編となる『Marvel's Spider-Man: Miles Morales(スパイダーマン:マイルズ・モラレス)』が、先日ついに発売された。
今回、前作『Marvel's Spider-Man』ではデザインディレクターを務め、続編でゲームディレクターを務めたキャメロン・クリスチャン氏に、本作についてインタビューすることができた。ここでは、とくに映画との関係を中心に、本作の特徴を語ってもらった。(編集部)
ーーものすごい成功作となった前作の続編を、今回はゲームディレクターとして引き継いだわけですが、クリスチャンさんは、どんな思いで本作の開発に着手したのでしょう。
キャメロン・クリスチャン(以下、キャメロン):プレッシャーがあったということは、認めざるを得ませんね。前作が本当に成功したので、まずは前作のファンの期待に応えなくてはならない。それでいて、本作を新鮮なものとして感じてもらえるようにもしなければならない。どういう風に差別化していくのかが大きな課題でした。
それからハードコアなゲーマーだけではなく、コミックのファンや、映画でスパイダーマンに興味を持ってもらった、ゲーム経験があまりないプレイヤーも念頭に置かなければ、という思いも強かったです。
主人公が今回、ピーター・パーカーからマイルズ・モラレスに変わりましたが、キャラクターにいかに感情移入してもらうか、というところも非常に気を使っています。むしろ、今回初めて「スパイダーマン」のゲームに入ったプレイヤーは、新米のスパイダーマンとなったマイルズが、真のスパイダーマンになっていく気持ちを、ゲームの操作を通して自分と重ねながら楽しんでもらえるのではと思っています。
ーーキャラクターの構築についてはどういう工夫をしましたか。
キャメロン:本作で見ることのできるマイルズの動きについて、ピーターからのデータの流用はまったくありません。ウェブ・スイングするときも、戦闘するときも、歩くときも、あらゆる動きが新しいものに置き換わっているんです。
それには、マイルズの若さを表現したいという狙いがありました。例えば、ニューヨークの街をスイングで移動しながら、空中で行うことができる“エアトリック”が、ピーターよりも大胆になっています。それはマイルズが自己表現をしたいという欲求の表れでもあります。そして、マイルズの若さやパーソナリティを、ヒップホップを使ったサウンドトラックでも表現しています。
同時に、彼のスパイダーマンとしての未熟さや、彼が悩んでいたり不安になっていたりというネガティブな心理も、彼の様々な動きの中に織り込んで表現しています。それから、マイルズ固有の能力によって戦闘が進化したというところを感じてもらいたいですね。
ーー生体電気を放つ“ヴェノムパワー”ですね。
キャメロン:そうです。マイルズ固有のヴェノムパワーを戦闘に使うことで、いままでにないパワフルな体験が楽しめます。今回は、そんなマイルズ独自の特徴に、とくに注力して開発しています。もちろんPS4版でも十分に楽しめますが、PS5版では、DualSenseの「ハプティックフィードバック」によって戦闘の迫力を増すことができました。高速で読み込みができるカスタムSSDを搭載しているため、ロード時間が短いという利点は、プレイヤーの没入感をより高めてくれています。
また、今回はより戦闘を“映画的”な表現にしたかったという思いもあります。そのような演出が加えられた部分とプレイ部分とをなめらかにつなぐことを考えました。
ーーそうですね。本作ではプレイできる部分とムービーが、良い意味でより曖昧に、複雑になっているように感じました。
キャメロン:ゲームプレイ、戦闘、ムービー、それぞれを明確に分けず、つながった体験を提供することを重視しています。例えば、序盤に巨体を誇るヴィランである“ライノ”が暴れて、プレイヤーの操作するキャラクターを乗せたままショッピングモールに突入していく場面があります。また、橋が崩壊するなかで人々を助けなければならない場面もあります。カメラワークを駆使した、非常に映画的といえる部分ですが、同時にプレイヤーが操作をできる部分でもあります。単に映画的というより、プレイヤーが「映画の中にいる」と感じられるようなものになっていると思います。
ーー『スパイダーマン』は、映画でも多様な人種が登場します。その意味では、マーベルのなかでも多様性をリードするイメージが確立していると思います。本作では、その点についてどのような取り組みがありましたか。
キャメロン:多様な人種が集うニューヨークが舞台であるということが反映できるように、そして、プエルトリコ系でもあり、アフリカ系でもあるというマイルズが主人公であるということをしっかりと反映できるようにこだわっています。
この点については、おろそかにはできないので、われわれ自身も調査しましたし、専門のコンサルタントを雇って、彼らと相談することで正確な描写を目指したんです。実際にこの作品に登場するニューヨークで生きている人たちが、「自分たちが“正しく”ゲームの中で代表されている」と思ってもらえるように開発しています。
例えば、マイルズだけを取り上げても、ふたつの人種のバックグラウンドを持っているわけですが、プエルトリコ系の使うスペイン語というのは、スペイン人のそれとはちょっと違っていて、とくにニューヨークに住むプエルトリコ系の話し方というのもあるわけです。
なので、マイルズがたまに話すスペイン語について、まず専門家からフィードバックを受けて、実際のニューヨーカーが話すようなスペイン語にしていますし、さらにそれを実際のプエルトリコ系のニューヨーカーに聴いてもらって、違和感がないかどうか確認するというプロセスを経ています。最終的に「これが自分たちのスペイン語だ」と思ってもらえるようなものに仕上げているんです。
ーーそういった部分までこだわって作り込まれているんですね。逆に、やり残した部分や、実装しようとして断念した要素などはありますか。
キャメロン:それが、ほとんどないんですよ。企画の段階で話し合っていた目標は、ほぼ達成できましたし、本当に理想通りの出来になったと思っていますよ。