“PS5の看板タイトル”の名をほしいままにした、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』の進化と少しの懸念

『ラチェクラ』の進化と少しの懸念

 大きな眉毛とモフモフの毛並みが愛くるしいラチェットの姿に一瞬騙されそうになるが、PlayStationプラットフォームきっての看板タイトルである「ラチェット&クランク」シリーズの魅力は、目の前のものを片っ端から破壊していく爽快感にある。

 フィールドに配置されたボックスやオブジェクトを殴れば、スクラップやボルト(ゲーム内通貨として使える)を撒き散らしながら木っ端微塵に壊すことができるし、近付いてきたザコ敵を殴れば、コミカルな動きと共に吹っ飛ばすことができる。強い敵が出てきたり、数が増えたりして手持ちのレンチや腕だけでは処理しきれなくなったら、このシリーズを彩ってきたユニークな銃たち、通称「武器ガラメカ」の出番だ。プラズマ弾を放つスタンダードなピストル銃から、敵をまとめて吹き飛ばしてしまうミサイル兵器、そして他のゲームではまず出てこないであろう奇妙なギミックを搭載したものを含む様々な武器ガラメカを取っ替え引っ替えしながら、目の前に表れた大量の敵を一気になぎ倒していく。画面の中は相手から放たれる凄まじい量のビームや銃弾、それに負けじと応戦するために武器ガラメカから放たれるあらゆる種類の攻撃でカオスの極みだが、それが終わった後には、大量のスクラップと敵が落としたボルトがプレイヤーの元へと降り注ぐのだ。このカタルシスを求めて、プレイヤーはまた新たなエリアへと進んでいくのである。そして、その破壊の面白さは2002年に第一作がリリースされてから、現在に至るまであらゆる人々を魅了してきたのだ。

 勿論、シリーズの魅力は決してそれだけではない。カラフルでバリエーション豊かな箱庭ステージを縦横無尽に探索するプラットフォームアクションとしての面白さ、3Dの地形とユニークなギミックを駆使して謎を解くパズル要素、銀河をまたにかけたスケールの大きな冒険をベースとした物語、まるでピクサー作品を彷彿とさせるような親しみやすく表情豊かなキャラクターたちの愛らしさ、そして何よりも常に直感的かつ気持ち良く操作することが出来る洗練された動きのメカニクス、これらの要素がコアとなる戦闘のループと見事に噛み合ったことで、「ラチェット&クランク」は約20年にも渡って愛され、PlayStationにおける看板シリーズとなった。

PSの歴史を支えてきたインソムニアックゲームズが遂に送り出す、PS5の看板タイトル

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』ローンチトレーラー

 開発元のインソムニアックゲームズは、1994年の設立以降、ほとんどの時間をPlayStationと共に歩んできた。90年代後半は米国を中心にヒットした「スパイロ」シリーズで初代PlayStationを盛り上げ、2006年にはPlayStation3のローンチタイトルとして「RESISTANCE ~人類没落の日~」をリリース。以降もコンスタントに新作を送り出し、2018年にはあのスパイダーマンをゲーム化した「Marvel’s Spider-Man」を作り上げた。同作は極めて直感的にニューヨーク中を飛び回ることができる優れた移動メカニクスや、誰もが簡単にスタイリッシュなバトルを繰り広げられる爽快感に満ちた戦闘システムなど、これまでインソムニアックゲームズが磨き上げてきたノウハウが見事にキャラクターへと落とし込まれた傑作として評価され、同作の続編である「Marvel’s Spider-Man: Miles Morales」はPlayStation5のローンチタイトルとしてリリースされるに至っている。

 だからこそ、多くのゲーマー、特にPlayStationユーザーはインソムニアックゲームズに対して強い信頼を抱いている。そして、遂にリリースされた同社の最新作『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』は、恐らくこれまでの作品の中でも特に大きな期待を背負ったタイトルであると言えるだろう。本作は前作から約5年という最長のブランクを経て遂に登場した「ラチェット&クランク」最新作であり、2021年時点におけるほぼ唯一の「PlayStation5専用のビッグタイトル」なのだから。

看板シリーズ最新作の名に恥じない美麗なグラフィックと史上最高のカオスな戦闘体験

 『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』をプレイしてすぐに気付くのは、目の前に広がる景色の圧倒的な美しさだ。冒頭のパレードの場面では巨大バルーンや花火などのカラフルな演出で彩られた華やかなステージをチュートリアルとして進めていくことになるが、その発色の良さやカートゥーン調でありながらも安っぽさを感じさせないオブジェクトのリッチな質感にすっかり見惚れてしまう。肝心のラチェットとクランクの表現についても、細部まで丁寧にアニメーションが作り込まれており、ただ放置するだけでもイキイキとした動きを楽しむことが出来る(クランクの表面におけるメタリックな光沢も極めて美しい)。シリーズの醍醐味である破壊表現も見事で、オブジェクトを一つ壊すだけでも画面いっぱいにスクラップとボルトが画面いっぱいに飛び散り、軽快な効果音やDualSenseのハプティックフィードバックとも相まってとても気持ちが良い。

 しかし、これはあくまでチュートリアル。本作では、次元を超えた向こう側の世界で新たな「銀河をまたにかけた冒険」に挑むことになるわけだが、ネオンが綺羅びやかに彩るサイバーパンク感に満ちた大都市のコルソンVや豊かな大自然と巨大な採掘機材のコントラストが楽しいサルガッツォ、惑星の大部分が崩壊した衝撃的な光景と美しく輝く露出した結晶が神秘的な印象を与えるブリザープライム、荒野の一帯の中に突如として巨大な機械や建設物が埋め尽くす空間が出現するトレンIVといったバラエティ豊かな惑星の数々が本作の冒険を彩ってくれる。新たな惑星に降り立つ度にワクワクするし、それでもなお、目の前に広がる壮大な光景に幾度となく圧倒されてしまう。歴代シリーズは勿論のこと、現代のゲームにおいてもトップクラスのグラフィックを誇る作品であることは間違いないだろう。

 そして本シリーズにおける最大の魅力である戦闘についても、本作ではこれまでの作品から更なる進化を遂げている。何と言っても特筆すべきはフィールド内の別の地点まで瞬間移動する「リフトテザー」とダッシュと回避を組み合わせた「ファントムダッシュ」の2つのメカニクスの導入である。これまでのシリーズでは逃げるためのメカニクスが存在しなかったため、ひたすら今いる場所でピョンピョン飛び跳ねることで攻撃を避けて戦うのが基本的な立ち回りだったのだが、この2つのメカニクスの導入によって、敵の攻撃の間合いを見て回避し、戦闘フィールド全体を有効活用しながら戦うことができるようになったため、戦闘全体の戦略性と躍動感が大幅に向上したのである。本稿の執筆に際して、改めて過去の作品をプレイしてみたのだが、回避が出来ないことに対して既にもどかしさを感じてしまうほどだ。

 だが、進化したのはプレイヤー側だけではない。本作の敵キャラクターは容赦なく大量にビームや銃弾を乱射してくる上に一度に出てくる量が非常に多く、更に体力もある程度多めに設定されていることから常に混戦を余儀なくされる。一方で、各武器ガラメカの弾薬量は(アップグレードによって上限を増やすことが出来るものの)やや少なめに設定されているため、一つの武器ガラメカのみを使い続けるとあっという間に弾薬を使い切ってしまう。その上、過去作同様に各エリアに設けられた補給弾薬は一度に補給出来る量が限られている上に、種類がランダムとなるため、プレイヤーはとにかく全ての武器ガラメカを総動員して敵に立ち向かうことになる。

 その結果、画面内はあらゆる武器ガラメカの弾薬とそれらがもたらすユニークな効果、カラフルで多彩な演出も相まって、シリーズ史上最大のカオスとなる。「ピクセライザー」でドット絵と化した敵もいれば、「コールドスナップ」で氷漬けになって動けなくなった敵もいるし、「ミスターファンガイ」のパーティー気質のキノコ達が相手の気を惹こうとしているし、「リコシェット」の空中に浮いたボールが色鮮やかな軌跡を描きながら敵をしばき倒すし、「グリーンスプリンクラー」のおかげで敵の一部は植物になってスプリンクラーが水を撒いており、さらにそこに火力抜群のロケット「ウォーモンガー」が放たれるのだ。そうして敵を蹂躙し、途轍もない量のボルトが一気に自分の身へと降り注ぐ瞬間のカタルシスは圧倒的で、尋常ではないほどの中毒性を持っている。既に完成されていたとも言える本作の戦闘の面白さだが、間違いなく今作でさらなる高みへと到達していると言えるはずだ。また、画面内に描画されるオブジェクトの量が膨大に膨れ上がってもなお、フレームレートは常に安定しており、改めてPlayStation5のマシンパワーに驚かされる。

シリーズ初となる女性主人公「リベット」を自然に合流させた物語構造

 

 グラフィック、戦闘メカニクスと共に正当進化を遂げている本作だが、ストーリー面においてはこれまでの作品には無かった一つの大きな、そして重要な挑戦が行われている。それが別次元におけるラチェット&クランクに相当する存在である、ラチェットと同じロンバックス族のリベット、そしてサポート役のロボットであるキットの登場。敢えて言えば、女性版「ラチェット&クランク」の導入である。

 前提として、これまで男性のキャラクターが主体となっていた作品において、マルチバース(多次元)という概念を導入することをきっかけにそれまでの作風には無かった女性のメインキャラクターを導入するというのは、例えば昨年リリースの『クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース』やちょうど本作のリリースと同時期に放映開始したDisney+によるマーベルのドラマシリーズ『ロキ』といった作品でも実施された試みであり、正直なところ既視感は否めない。身も蓋もないことを言ってしまえば、近年のビデオゲームにおけるジェンダーバランスの議論といった潮流に目配せした、安易な取り組みなのではないかという指摘もあるだろう。勿論、これまで主流となっていた男性キャラクター以外のキャラクターを導入すること自体は極めて重要だ。だが、その描写や導入する流れ、取り扱いなどがないがしろにされてはならない。そして、その上で、あくまで筆者個人としてだが、本作はその点に対して意識的に取り組んでいると感じている。

 本作におけるリベットの位置付けは、単なるサポートキャラやゲストキャラではなく、もはや実質上の主人公に相当する。というのも、実は本作では物語中で訪れることになる全9惑星のうち5つの惑星がリベットを操作するステージとなっており、全体の割合においても明らかにラチェットよりもリベットとしてプレイする時間の方が多くなっているのだ。本作が前作から5年ぶりという、シリーズファンにとって待望の作品であることを踏まえると極めて大胆な試みだと言えるだろう。だが、そのことに対する批判は(少なくとも筆者が確認した限りでは)少なく、筆者としても違和感を感じる場面はほとんど無かった。その理由として、ラチェットのような愛らしさがありながらも凛々しさを感じさせるキャラクターデザインの魅力は勿論だが、それに加えて本作を貫く物語の構造自体が大きく寄与しているのではないだろうかと考えている。

 本作ではラチェットとクランクが誤って別次元への扉を開いて二人が離ればなれになってしまうところから始まり、「クランクとの再会を目指すラチェット」、「次元間を移動出来るガラメカ・ディメンジョネイターを修理するために奮闘するクランク」、そして「その次元を支配するヴィラン、皇帝ネファリウスに挑むリベット」の姿が描かれるのだが、最序盤でクランクとリベットが合流し、早いタイミングでラチェットとの連絡も可能になるため、基本的ににリベット&クランクのペアが中心となって物語を進めながら、ラチェットが別行動でサポートしていくことになる。序盤は別次元の世界に戸惑いながらリベットと交流するクランクの姿を中心に描かれるのだが、プレイヤーは馴染み深いクランクの視点を通して、リベットという新しいキャラクターへの理解を深めていくことになる。一方で、ラチェットパートではリベットとクランクのために必要なものを探す過程でキットと出会い、交流を深めていくという様子が描かれ、こちらもラチェットの視点で新たなキャラクターへの理解を深めていくことになる。そうして「リベット&クランク」と「ラチェット&キット」として遊びながらそれぞれの物語を進めていき、やがて両者が合流する出来事を経て、遂に満を持して「ラチェット&クランク」の復活と「リベット&キット」の誕生を迎える瞬間が訪れる。

 このように、本作はラチェットとクランクがコンビであることを上手く活用し、サポートキャラの視点で新たな主人公を知り、主人公の視点で新たなサポートキャラを知る構造となっている。だからこそ、約20年にも及ぶ歴史を持つタイトルでありながらも、シリーズファンにも違和感を与えることなく「リベット&キット」を合流させることが出来ているのではないだろうか。また、あくまでリベットとキットはタッグを組んだばかりであり、その二人に対しても信頼関係を構築するためのとある展開が用意されている。本作を終える頃には、「リベット&キット」による新たな冒険の物語を観てみたくなるはずだ。エンディングや設定、そして本作に対する評価を踏まえても、次作以降にリベットとキットが登場するのはほぼ確定と考えて良いだろう。以前よりインソムニアックゲームズは魅力的なキャラクター作りに定評がある会社でもあったが、その手腕が今回の「シリーズ初の女性主人公」という挑戦にも見事に活かされているのではないだろうか。何より、本作の構造や物語からは自信を持って創り上げた大切なリベットとキットというキャラクターを、シリーズファンの人々にも是非親しんでほしいという愛情を強く感じることが出来るのである。



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