EasyPop×めろちん「ハッピーシンセサイザ」タッグが語り合う、“踊ってみた” カルチャーの魅力と進化

EasyPop×めろちん「踊ってみた」対談

 4月24日と25日の2日間、ドワンゴ主催によるボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection 2021 spring』が開催される。このイベントは、昨年末に開催された『The VOCALOID Collection -2020 winter-』に続くシリーズ第2弾イベントで、人気アーティスト/クリエイターがステージに登場する「ボカコレライブ」のほか、人気ボカロPによるStemデータの配布、プレイリスト企画、生放送や超絵師展などを通して、ボーカロイドとそれに付随するカルチャーの魅力を多角的に伝えるイベントとなっている。

 今回はその開催を前に、ボカロP/音楽プロデューサーのEasyPopと、踊り手/振付師のめろちんの対談をお届けする。この二人と言えば、ボカロシーン屈指のヒット曲のひとつであり、「踊ってみた」文化の盛り上がりを決定づけた「ハッピーシンセサイザ」だ。今も色褪せないマスターピースを創り上げた二人に、その制作秘話と「踊ってみた」カルチャーの魅力について、リモートでじっくり語り合ってもらった。(杉山 仁)

【踊ってみた】ハッピーシンセサイザ【めろちん】

「とにかく早く動画をアップしたい!と思ったんです」(めろちん)

――「ハッピーシンセサイザ」の「踊ってみた」は、めろちんさんにとって初の動画投稿でしたが、それにもかかわらず、ニコニコ動画にアップされたのは、EasyPopさんによる楽曲が公開されてすぐのことでした。

めろちん:そうですね。「ハッピーシンセサイザ」が11月22日に上がって、僕が踊ってみたを投稿したのが12月3日で。

EasyPop:「ハッピーシンセサイザ」は、楽曲を投稿してすぐにボカロのランキングに入っていったんですよね。めろ(めろちん)もそれを見ていたのかな?

めろちん:いえ、僕がこの曲を知ったのはランキングではなかったんです。当時、僕は生主の百花繚乱くんの配信を観ていたんですけど、その配信内で「リスナー同士で友達になろう」というTwitterの相互フォロー企画があって、大学3年生だった僕もリスナーとして参加していました。そうしたら、そこで繋がったリスナーさんが「この曲いいよ!」と「ハッピーシンセサイザ」をツイートしていて。それが僕が曲を知るきっかけでした。なので、繚乱には頭が上がらないんですよ。僕が活動をはじめたのは、繚乱のおかげかもしれない(笑)。

 当時の僕は居酒屋でバイトしていて、その帰りに市役所の窓ガラスを使ってダンスを練習していて。「ハッピーシンセサイザ」を聴いてすぐに「この曲で踊りたい!」と思って、そこからほとんど衝動的に動画を撮ってアップしました。それが、僕のダンサー人生で最初の振り付けになった、「ハッピーシンセサイザ」の「踊ってみた」動画だったんです。僕はもともと洋楽で踊ることが多くて、日本語詞に振りをつけたのは初めての経験で。それ以降も「踊ってみた」を投稿する中で、歌詞の意味に合わせて振りをつける楽しさを知りました。

ハッピーシンセサイザ【EasyPop/巡音ルカ GUMI】

――EasyPopさんがつくった楽曲に惹かれるように動画投稿をはじめたんですね。

めろちん:楽曲を聴いて、「とにかく早く動画をアップしたい!」と思ったんですよ。

EasyPop:「ハッピーシンセサイザ」は、「どうやったら(動画の再生数が)伸びるのか」と考えて曲をつくりがちになっていた自分が、それに疲れてしまって、「そんなことしても楽しくないな。本当につくりたい曲をつくろう」と、シンプルな気持ちに立ち帰った曲でした。周りなんて気にしないで、「自分がいいと思うもの」「自分がつくりたいもの」をつくろう、と。そこで、歌詞も悩まずに、自分がこういう歌詞がいいと思うものにしました。当時暮らしていたアパートで洗い物をしていたときに、サビの<ハッピーシンセサイザ/君の>という歌詞がふっと出てきて、「この譜割はいいかもしれない」と思って、そこから広げていったのを覚えています。自分が好きなものをそのまま書いたのが、今思うとよかったのかもしれないです。

――楽曲も歌詞も含めて、まるで音楽へのラブコールのようにもとれる楽曲ですね。

EasyPop:ああ、ありがとうございます。僕はもともと歌詞を考えるのがすごく好きなんですけど、なかでも普遍性というか、時間が過ぎても多くの人に聴いてもらえるものにしたいと思っていて。もしかしたら、そういう部分が出たのかもしれないですね。せっかく音楽をつくるんだったら、「およげたいやきくん」みたいに時代を超えて長く聴いてもらえるものをつくりたいし、年月を経ても、誰が聴いても共感できる歌詞にしたいと思っていて。そういう気持ちが、この曲には強く出ていると思います。

――めろちんさんは、どんなふうに振りを考えていったんでしょう?

めろちん:まずひとつは、「色んな人に踊ってほしい」と思っていたので、誰でも踊れるようなものにするために、自分がそれまでやってきたヒップホップダンスの要素を、振り付けにはあまり出さないようにしました。それがどうしても出ちゃう部分もありましたけど、一度振りをつくった後、なるべくヒップホップ的な要素をそぎ落としていったんです。あと、EasyPopさんの曲は歌詞もすごく分かりやすくて、抽象的にも具体的にも捉えられる気がしていて――。

EasyPop:それ、前にも直接言ってくれたことがあったよね。

めろちん:でも、歌詞をそのままトレースしてしまうとジェスチャーっぽくなってしまうので、たとえば「好き」という歌詞があったら、それを手でハートをつくって表現するのはやめよう、というふうに考えていきました。曲全体で大事な要素は、とにかく歌詞にもある通り「ハッピー」だと思ったので、それをメインのテーマにして、実は歌詞を直接振りにしているところって、すごく少ないんですよ。あと、僕が一番苦労したのは、歌詞がないイントロの部分でした。イントロの部分はずっと決まらなくて、結果として、シンプルに手を振るだけのものになりました。これは色々と考えた結果、最後に諦めたんだと思うんですね(笑)。確か撮影当日までできていなくて、最後に何とか出てきたものだったと思います。

EasyPop:へえ、そうだったんだ! でも、それが結果的によかったような気がする。当時、めろの「踊ってみた」はTwitterでもどんどん話題になって、その派生も生まれていって――。そこで自分も「ハッピーシンセサイザ」の「踊ってみた」を観たんですけど、素人の自分が見ても、「みんなが踊れるように簡単そうにつくっているけど、実際は相当ダンスが上手い人なんだろうな」と伝わるような踊りでビックリして。今「最後に諦めて手を振った」と言っていたけど、その部分にも、そういう想いが表われていたのかな、と合点がいきました。そこから、僕も「踊ってみた」が大好きになって、たくさん観るようになりました。


――楽曲をつくったEasyPopさんにとっても、めろちんさんの「踊ってみた」は印象的な出会いだったんですね。まさにニコニコ文化の特徴でもある、n次創作によってクリエイターが繋がっていく魅力を体感したと言いますか。

EasyPop:そうですね。あのとき、めろが「ハッピーシンセサイザ」に振り付けをつけて踊ってくれたことで、僕の曲を色んな人に聴いてもらえる機会にもなりましたし、何より「踊ってみた」という文化がより広がっていきました。そして、その文化がTikTokやYouTubeにも広がっていったと考えると、めろは本当に素敵なことをしてくれたんだな、と改めて思います。しかも、彼自身が好きなことをやっていたからこそ、広がっていったんだろうなと。

めろちん:でも、僕はあくまでEasyPopさんの曲にあやからせてもらっただけなので。僕は「踊ってみたの大御所」とか、「踊ってみたを引っ張ってきた有名踊り手」と言ってもらうこともありますけど、そう呼ばれるのはあまり好きではなくて、昔も今もただ自分が好きなことを続けてきただけなんです。この10年も、思い返せば色々な出来事がありましたけど、すごく早かったな、一瞬だったな、と思います。はじめた頃とは違って、踊ったり振りをつけることが仕事になっていった10年でもあるので、時には「辞めたい」と思ったこともありました。でも、そういう部分も含めて、すごく早い、充実した10年だったな、と思います。

――ちなみに、「ハッピーシンセサイザ」以外で、この約10年間の間にお2人にとって印象的だった「踊ってみた」動画や、振り付けが好きなボカロ曲と言いますと?

EasyPop:僕は「おちゃめ機能」かな。めろが踊ったのも好きだし、色んな人のを観ましたね。

めろちん:僕の場合は、色々ありますけど――。強いて言うなら、自分の場合はボカロが好きなので、たとえば初音ミクの楽曲のMVの振り付けをやらせてもらったりする中で、自分の振り付けをキャラクターが踊ってくれているのを見るのがすごく好きです。八王子Pの「気まぐれメルシィ」も、Mitchie Mさんの「ビバハピ」もそうですけど、そういうこともまた踊ってみたの可能性だと思いますし、オタクとしては心くすぐられる瞬間です。

――「ハッピーシンセサイザ」の10周年に際しては、EasyPopさんがTwitterに10周年を記念した楽曲の新アレンジを投稿し、めろちんさんは10年前の「踊ってみた」と同じ場所で、同じ衣装で当時をほぼ完全再現した「踊ってみた」動画をアップしていました。

EasyPop:そうそう。「あっ、また踊ってくれてる!」と思って観てました(笑)。

めろちん:僕の10周年の踊ってみたについては、ひとつの区切りとしてまた踊らせてもらいました。もちろん辞めるわけではないんですけど、たぶん、自分の中でけじめをつけたかったんだと思います。本の第一章から第二章に向かうときに、ひと区切りをつけたいというような、そんな気持ちだったのかもしれないですね。 

【めろちん】ハッピーシンセサイザをもう一度踊ってみた【10周年】

――衣装に関しては、10年前の衣装を保存していてそれを使ったんですか?

めろちん:そうです。これまで着た衣装は、すべて保存してあるんですよ。

EasyPop:やっぱり、あれって当時とまったく同じ衣装だったんだ。

めろちん:はい。当時はまだカメラの性能的にもニコニコ動画的にもまだ画質が今ほどよくなかったので、あのとき着ていた衣装はみんな白だと思っていたと思うんですけど、実はピンク(のシャツ)と白(のネクタイ)のストライプでした。画質が上がったことで、そういう答え合わせもできました(笑)。

EasyPop:最初、俺は当時とまったく同じだとは思わなかったんですよ。今言っていた通り、当時は、白いシャツに白いネクタイをしていたと思っていたから……。

めろちん:あと、昔の動画は画面比率が今みたいに16:9ではなかったので、時を経て画面比率が広がったことで、今回は部屋の映しちゃいけないところを隠すのが大変でした。

EasyPop:ああ(笑)。

めろちん:撮影場所は実家だったので、親と「また10年ぶりにドンドン言うと思うけど」というやりとりもしましたね。

「自分の曲だと思っていないような感覚もあって」(EasyPop)

――一方で、EasyPopさんの「ハッピーシンセサイザ」の10周年アレンジは、曲のテンポをぐっと落とした、落ち着いた雰囲気のアレンジが印象的でした。Twitterのみでアップする、という形を取っていたのも印象的です。

EasyPop:BPMが100もないくらいの、原曲よりゆったりとしたアレンジにしています。もともと、10周年の際には、あまり大々的にするのではなく、Twitterなどで上げて、それで終わりにしようと思っていたんです。仰々しくするんじゃなくて、「いつまでもこの曲を好きでいてくれている人に見てもらえたら、それでいいかな」とだけ思っていたので。それでみんなが「ああ、10年経ったんだな」と思うくらいにしたいな、と。でも、実際に上げてみると、自分が思っていたよりも色んな人から反応をくれて驚きました。

 

――あのテンポだからこそ、リスナーとしても10年間を改めて振り返るような気持ちにさせてくれるような魅力も感じました。

EasyPop:Twitterを見ていたら、すごくいい意味で感傷に浸ってくれているツイートがたくさんあって、「そうしてよかったな」と思いました。こっちが見ていても、涙腺が緩んでしまうようなツイートをしてくれる人がたくさんいたんですよ。でも、僕自身はあんなに色んな人が反応してくれるとは思っていなかったですね。ありがたいことでした。改めて「ハッピーシンセサイザ」の10年間を振り返ると、やっぱり、めろちんがあのとき踊ってくれたことは本当に大きかったと思うし、自分がつくった曲ではあっても、もう自分の手の中にはないというか、自分の曲だと思っていないような感覚もあって不思議です。

――なるほど。EasyPopさんがつくった曲であると同時に、色々な人の手にわたったことで、今ではもう「みんなの曲」になっている、と。

EasyPop:そうなんです。曲が広まるときって、色んなタイミングや運も関係すると思うので、僕としては本当に運がよかったな、という気持ちで。それはつねに思っていることですね。もちろん、つくる上では自信を持って曲をつくっていますけど、やっぱり今思うのは、みんなが曲に魅力を感じて、広めてくれて――。本当に運がよかったな、ということで。ネットにはこういう楽しいことが起こる可能性があるし、実際にあったよね、と思ってもらえたら嬉しいですね。インターネットの未来って末広がりでしかないと思うし、これからもどんどん広がっていくものだと思いますしね。

めろちん:実際、今ってボカロ文化に影響を受けた人たちの作品がどんどん世に出てきていて、それがすごく人気になっていますよね。

EasyPop:僕らがニコニコ動画で活動をはじめた頃よりも、もっと多くの人がインターネットに触れるようになっていて、ネット音楽がメインストリームになるような時代になっていて。そのときに、その文化のバックボーンにあるものとして、またニコニコ動画や「歌ってみた」「踊ってみた」の魅力を若い人たちが知ってくれて、大事にしてくれているのかな、とも思います。俺たちの時代は、素人が頑張れば何とかなる時代でもあったと思うんですけど、今の人たちの才能って、本当にものすごいと思うんですよ。出てきた時点で研ぎ澄まされていて、洗練されていて。ものすごい時代になってきているように思います。

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