ryo(supercell)×落合陽一が語り合う「ボーカロイドとクロス・ダイバーシティ」

ryo(supercell)×落合陽一 特別対談

 12月11日から13日までの3日間に渡って開催された、ボーカロイド文化の祭典『The VOCALOID Collection -2020 winter-』(ボカコレ)。“ボカロ”というカルチャーが大きく花開いたニコニコ動画をはじめ、ネット会場/リアル会場を問わず、すべてのクリエイターとユーザー&リスナーを巻き込んで大きな盛り上がりを見せるなかで、人気クリエイターから名曲たちのstemデータが提供されたことも話題になった。そして、「メルト 」「ブラック★ロックシューター」「ワールドイズマイン」と、ボカロカルチャーの黎明期から今に至るまで愛され続けて続けている3曲を提供したのが、後進の多くのクリエイターに影響を与えたレジェンド・ryo(supercell)だ。

 今回、「ボカコレ」の開催を記念して、そんなryoが「いま一番会いたい人」だという、“現代の魔術師”ことメディアクリエイター/研究者の落合陽一との対談が実現した。ボーカロイドというテクノロジーに救われ、落合氏が推進する「クロス・ダイバーシティ」に共感するというryo。ボカロの本質と未来を見通す、二人の邂逅をお楽しみいただきたい。

ryo(supercell)
多数のクリエイターからなるエンターテインメント・ユニットsupercellのコンポーザー。音声合成ソフト「初音ミク」を用い、「メルト」「ブラック★ロックシューター」「ワールドイズマイン」などの楽曲をニコニコ動画に投稿。1st アルバム『supercell』でセンセーショナルなメジャーデビューを果たし「第24 回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5 ニュー・アーティスト」受賞。「君の知らない物語」「さよならメモリーズ」「うたかた花火/星が瞬くこんな夜に」の3枚のシングルリリースを経て、2nd アルバム『Today Is A Beautiful Day』をリリース。「My Dearest」「告白/僕らのあしあと」「銀色飛行船」「The Bravery」「拍手喝采歌合」と立て続けに5枚のシングルリリースを経て、3rdアルバム『ZIGAEXPERIENTIA』をリリース。ryo名義においても初音ミクを駆使した 楽曲「こっち向いて Baby」「積乱雲グラフィティ」「ODDS&ENDS」「罪の名前」をリリース。2017年にはメルト投稿から10周年を記念して「メルト 10th ANNIVERSARY MIX」を配信リリースをして話題に。 現在新曲を鋭意制作中。

落合陽一
メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。『デジタルネイチャー(PLANETS)』、『2030年の世界地図帳(SBクリエイティブ)』など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。 オンラインサロン「落合陽一塾」主宰。

「自分ではない何者かになって音楽を作る」(ryo)


ryo:自分が落合さんを知ったきっかけは、『情熱大陸』(TBS系)でした。ミュージシャンだと思って見ていたらアカデミックな人で、他に比べる対象がない、いわば「落合陽一」という職業なんだと思って。それ以降、注目するようになりました。

落合:実は僕もryoさんの作品はずっと聴いていて、特に2ndアルバムの『Today Is A Beautiful Day』は、2011年で一番聴いたんじゃないかな。ryoさんの曲を聴いていると、風景がビビッドに思い浮かぶんです。たぶん、都市部から少しだけ離れてた街で暮らしている女子高生のようなペルソナで、初恋をして、大人になって、働き出して……みたいなストーリーを的確に捉えているんだけれど、しかし、絶対に女の子が書いた歌詞ではないよな、ということがわかる。その原風景を考えるのが面白くて。

ryo:自分はもともと匿名性の高い音楽が好きで、自分を消失させたがるんですよね。だから「アーティスト」と名乗りたくなくて、顔出しもしていない。ニコ動に投稿を始めたのも、当初は音楽をやりたいとは全く思っていなくて、ただ1万5千円もした初音ミクを買ってしまったので、元を取るために歌ってもらう歌詞を書いたら、肉体性を持ってしまっていまに至るというか。

落合:ここ10年のコンピューター史を振り返ると、何を始めるにしてもソフトウェアを使うためのコストが劇的に下がりました。そこでプロではなくアマチュアの人が新しいものを作り、そのなかにプロには作れない面白味があった。自分は2007年に大学に入り、コンピュータやメディアを研究する学部だったので、みんな初音ミクを買ってインストールするんですよ。しかし”調教”(調声)が難しい。そうこうしていたら、ニコニコ動画を中心に上手い人が出てきて、その筆頭がryoさんだった。いつかこのコミュニティから外に出てくるだろうと思っていたら、「君の知らない物語」(2009年)がテレビで流れていて、「この人、初音ミクを使わないとこんなことをするんだ!」と。


ryo:落合さんが発信しているプロジェクト「X DIVERSITY」(クロス・ダイバーシティ/人や環境の「ちがい」をAIとクロスさせ、 多様性の観点から問題解決の仕組み作りを目指すプロジェクト)も追いかけていて、これが自分が求めている音楽性と同じだなと考えていました。

落合:多様性と普遍性の話ですね。例えば、広告を考えると、マスにある普遍性が重要だったのが2006年くらいまでで、SNSが出てきてからは普遍性より多様性のなかから、ニッチなものを寄せ集めて作ったものが一番ウケる、という時代になった。そのなかからマスメディアのヒーローを目指すと、どんどん角が取れた表現になっていく。それが本当に普遍なのか、最大公約数的に生まれたその時代の表現というべきものなのかわからないけれど、多様性との距離感が変わってきていますね。

ryo:自分は「自らにレベルキャップをつける」と表現しています。最初から最大公約数を狙いにいくと、絶対にお客さんを舐めてかかることになる。そうではなく、レベルキャップのなかで、最大限にカッコいいものを作るんです。例えば20歳になりきる。レベルキャップを外した自分から見ると、「いや、これは若すぎるでしょ」と思うかもしれないけれど、自分ではない何者かになって音楽を作るのが、とても好きなんです。

「子どもの関心をひくのに、音声合成は面白い」(落合)

落合:だからryoさんでありながら、女子高生の主観としか思えない音楽になるんだ。

ryo:その点、ボーカリストはレベルキャップをつけず、肉体性を持って自己表現をする人が多いので、理解してもらうのが難しいですね。ボーカロイドには、それがない。自分の声って、ファミレスで店員さんを呼んでもほとんど聞き取ってもらえないんですよ。そもそも店員さんを呼ぶことに対して恐怖心がある、というタイプで。その意味で、ボカロというものがクロス・ダイバーシティになっているというか。

落合:人間拡張をするというか、弱い部分を中和していく。


ryo:そうですね。ボカロに関連して聞いてみたいことがあって、例えば未就学児に面白いと思ってもらうには、どんなインターフェスが必要なのかと考えるんです。未就学児はつまらないことには興味を示さない。それは世界の音楽シーンを席捲するヒップホップシーンの方たちの音楽への触れ合い方と似てる気がする。翻って考えると、つまり未就学児を制すれば、世界を制する、ということになるんじゃないかと。例えば、自動的に子どもの声を集積して、その声で合成音声が展開されて、いわば自分がボカロになって、ボカロ曲を歌ってくれる、というアプリがあれば面白そうだなと思うのですが、そういう時代はだいぶ先になりそうですか?

落合:Adobeが研究を進めていて、自分の声でしゃべるものはもうできています。ただ、それがなぜ世の中に出てこないかというと、もうひとつキャズムがあって、そのモデルを研究する人と、サービスとして仕組み化する部分が断絶しているというか。近いものは、来年、再来年あたりに出てくるかもしれません。子どものインテンションをどう拾うか、ということでいうと、音声合成は面白いですね。例えば、『マリオカート』は面白いけれど、3歳の子どもが遊ぶには約束事が多すぎる。けれど、実際にカートを走らせる『マリオカート ライブ ホームサーキット』なら、コースと身体性が明らかで関心を持ちやすい。楽器となると練習が必要ですが、人体にもともと発する/楽しむための力学的構造がそろっている音声は強いですね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる