ボカロ文化は“懐古”から“前進”へ 熱狂の「ボカコレライブ」を振り返る

「ボカコレライブ」レポート

 ボカロ文化のさらなる発展を目指す記念日として立ち上げられた、大型イベント「The VOCALOID Collection」(ボカコレ)。その第1回目となる「2020 Winter」が、12月11日から13 日にかけて開催された。黎明期からシーンを追いかけ続けてきたファンも、YOASOBIやヨルシカのブレイクでそのルーツを遡ったリスナーも、新たなボカロ曲の誕生や名曲のリミックスを楽しみ、ネット総来場者数は100万人超。2021年4月に「The VOCALOID Collection〜2021 Spring〜」を「ニコニコ超会議2021」と同時開催することも発表されるなど、「ボカコレ」はシーンを活性化させる大きな一歩を踏み出した。


 このイベントが、ボカロシーンの輝かしい歴史を振り返り、懐かしむためのものではないことは、キービジュアルを見た瞬間に予感できた。浦島坂田船「Peacock Epoch」のようなアイドル風の美麗なイラストから、DECO*27「ゴーストルール」のような尖った”病み系”のイラストまで、幅広い作風で知られる人気絵師・八三(はっさん)が「ボカコレ」のために描き下ろしたボーカロイドたちの表情は、どこか挑発的だ。なかでもボカロの象徴・初音ミクは、“ファンに応える”というより“号令をかける”ように左手を高く掲げ、野心的な笑みを見せている。ここから何かを起こしてやろう、というイメージが伝わってくるのだ。

 そんな『ボカコレ』のなかで注目を集めたのが、12月12日、豊洲PITにて二部構成で開催されたリアルライブイベント『The VOCALOID Collection LIVE』(ボカコレライブ)だ。あらためて、その模様をお伝えしたい。

 開演前から、ステージのスクリーンにネット視聴者のコメントが流れ、観客がペンライトを振ってそれに応えるという、ニコニコ系のイベントではお馴染みのやりとりが見られた。コロナ禍以前から続いてきた光景だが、この状況で否応なく、時代が追いついてしまったという感じだ。ボカロクリエイターも、歌い手も、踊り手も、ライブでパフォーマンスを披露する機会が失われていた2020年。そのなかで万全の感染症対策を整え、実現した貴重な機会とあって、ファンは興奮を抑えきれない。

 第一部は、2009年から2014年のボカロ曲が中心に据えられた。針原翼(HarryP)& Heavenzのギター&DJパフォーマンスから始まり、+α/あるふぁきゅん。が抜群の歌唱力で盛り上げた164のステージ、歌い手ユニット・Capital Rhythmによる名曲メドレー、「踊ってみた」からは愛川こずえの「ルカルカ★ナイトフィーバー」やめろちんの「ハッピーシンセサイザ」、koma’nのピアノ演奏で披露された小林幸子の「千本桜」……などなど、見どころが多すぎる内容だったが、ハイライトはやはり、トリをつとめたピノキオピーのパフォーマンスだろう。


 レジェンドの多い“2009年組”で、メジャーシーンでも活躍するピノキオピーは、“こういうクリエイターの存在を世に知らしめてくれた”というボカロ文化の功績を強く感じる異才だ。ボカロらしいコミカルさを強調しながら、独特のワードセンスで描かれる楽曲の世界観は、現実社会へのメタファーも多く含まれ、深く考えさせられる。それでもステージングは明るく軽快で、誤解を恐れず表現するなら、「地頭がよすぎてどうにかなってしまう一歩手前で踏みとどまった人」という感じ。彼の才能とリスナーをつないでくれたボーカロイドに、感謝せずにいられない。

 この日、披露された「腐れ外道とチョコレゐト」(2011年)、リミックスされた「マッシュルームマザー」(2011年)や「ニナ」(2013年)も、言葉選びのセンスにバンド演奏も相まって、まったく古く感じられない。比較的新しい「アルティメットセンパイ」(2019年)、「内臓ありますか」(2019年)は、マスク着用の上、歓声をあげることができない状況でも、オーディエンスの盛り上がりが肌で伝わる白熱のパフォーマンスだった。


 そして、ラストを飾ったのは「すろぉもぉしょん」(2014年)。熱を出して寝込んだ主人公の視点から、人生の機微をコミカルに描いた人気曲だ。大きな憂鬱を軽く受け入れ、一方で、くしゃみ一つに人生の本質を見出すようなこの曲は、コロナ禍でさらに輝きを増したように思える。年代としては懐かしい楽曲が多かった第一部だが、新鮮な感動を残して、第二部にバトンをつないでいた。

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