フィンランドの義務教育がわずか二日で遠隔化できた理由は? 現地の小中学校教員に聞いた

フィンランドの義務教育、なぜ二日で遠隔化?

万全のコロナ対策……という訳ではない

 インタビューした両教員の勤める学校ではスムーズに遠隔化が行えたようだが、別記事で「テレワーク化しやすい前提条件」がフィンランドに存在したと述べたように、ここでもやはりすでに遠隔教育のための基盤ができていたことこそが、政府の決定に素早く対応することのできた理由の最たるものだろう。

 無論フィンランドのICT教育はコロナウイルスのようなパンデミック下で遠隔教育をするための準備として存在したものではないが、結果としてこれが役に立った訳だ。

 それでも労働時間が増えたという教員の話や、生徒に貸し出すデバイスが十分無かった学校の例のように、フィンランドもまた全ての学校が上手く授業の遠隔化に対応できたわけではないということもまた、フィンランドのコロナウイルスを受けた遠隔教育にまつわる事実であるということは頭に留めておくべきだ。特に日本のメディアではフィンランドの教育や福祉を神格化して伝える風潮があるが、日本より優れた点にばかり注目すべきではない。フィンランドもまた他の国と同じくこの未曾有の出来事に善処しようと務め、苦戦している一国に過ぎないことはよくよくご理解戴きたい。

 別の例として、ミエットゥネン氏は「私の学校では保護者が希望する場合は給食も用意しています。給食を希望する場合は学校に給食を取りに来てもらい、家で食べるという持ち帰りスタイルになります」とも語っていたことも挙げよう。親の忙しさ、子供がまだ料理が作れない、家庭で料理を提供する金銭的余裕がない、理由は何であれ、必要あらば学校給食も提供されるのは心強い。

 現代のフィンランドでは全国の小中高で給食は無料だ。実はフィンランドは世界で初めて1943年より法律で無料の学校給食を制定した国だ。90年代にはこの「無償の給食」がフィンランドの教育に関して世界的に注目を集める点であった。しかしコロナウイルス状況を受けた現状ではこの平等性が崩れてしまっている。

 いま、フィンランド全国で給食を提供している自治体は約半数しかなく、後の半数は給食を提供していないか社会的観点(すなわち保護者の収入)を元に提供するのみだ。これに対し教育大臣のリー・アンデルソン(Li Andersson)は、感染拡大を防ぐ以外の理由で給食提供が制限されるべきではない、どのような若者もエピデミックのせいでお腹を減らすべきではなく、保護者に収入を尋ねるのも適切でない上、法律に則っていない、と国営放送YLEに語っている。

 なんだか変に暗い感じで締めくくってしまったが、次回記事では今回と同じ2教員に訊いた遠隔教育のメリット・デメリットなどをご紹介していこう。

Source: Business Insider Japan,Real Sound Tech, YLE, YLE 2, YLE 3, Valtioneuvosto, YLE 4, Opetushallitus, This Is Finland, Valtioneuvosto 2, Yle 5, YouTube, Real Sound Tech 2, Opetushallitus 2, YLE 6

■Yu Ando
フィンランド在住フリーライター。執筆分野は、エンタメ、ガジェット、サイエンスから、社会福祉やアートに文化、更にはオカルト系まで幅広い。ライター業の傍らアート活動も行っているほか、フィン・日両国の文化を紹介する講演を行うことも。趣味はガジェットへの散財。
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