フィンランドの義務教育がわずか二日で遠隔化できた理由は? 現地の小中学校教員に聞いた

フィンランドの義務教育、なぜ二日で遠隔化?

小学校の場合:準備はなくとも容易だった授業の遠隔化

 ミエットゥネン氏によれば、Rödskog skolaでは政府の学校閉鎖令に先んじて教員、学習補助員、保護者に遠隔授業が行われる可能性を伝えてはいたが、特段準備をしていた訳ではなかった。わざわざ準備をしていなかったのは、学校としても政府の迅速な意思決定の方向性が予測できなかったためである。

 政府の決断が出てからは、全ての学校がそれを「実現させる」義務を負うことになった。ミエットゥネン氏によると「テクノロジーが苦手な教員にとってはプレッシャーやストレスになったでしょうが」、多くの教師は既にオンラインプラットフォームを使用したことがあったため、ほとんどの教師にとって移行は問題ではなかったようだ。日常的にオンラインサービスやアプリケーションを活用していたので、これを副次的なものからメインのプラットフォームへと移し替えればよかったのだ。生徒達も国家学習指導要領に基づきウェブベースの教材とプラットフォームを使った授業を受けているので、生徒にとっても親しみのあるものだった。そのため遠隔教育への移行は「容易」であったという。

 「柔軟性があって、決断が素早く、必要あらばその場で計画を変えることに長けている、それが教員というものです」とミエットゥネン氏。加えて教員は行う授業を前もって計画していることもあり、急な遠隔授業への変更にも対応がスムーズだったと語ってくれた。移行に際して「普段と比べて」残業が増えるという訳でもなかったとしている。

中学校の場合:職員と生徒のICTスキルで遠隔化がスムーズに

 ヘイコラ氏の学校の方も、政府発表の数日前から遠隔教育が行われるという憶測はなされており、発表を受けて驚きはしなかったという。こちらでも特に学校として遠隔教育への準備をしていたわけではないが、移行はスムーズだった。

 迅速な遠隔教育への移行できた理由としては、日頃から様々なアプリケーションやデジタル学習環境を使用しており、職員と生徒達は「平均的にかなり良いICT(情報通信技術)スキル」を持っていることが挙げられた。

 このほか、生徒達に「学校生活スキル」(Koululaisen taidot)を養うための活動も定期的に行っており、これが遠隔授業への対応の役に立ったとのことだった。この「学校生活スキル」は小中高生に期待される生徒としてのスキルであり、どれだけの量の課題をどれだけの時間でできるのかといった自分の勉強の企画やスケジュール管理、自分の強みを認識するなどが含まれている。

(なお今回インタビューした2教員の勤める学校はどちらもスムーズに移行ができたようだが、This Is Finlandの報道では「各生徒の計画、指導、評価に通常の授業よりも多くの時間が掛かった」ために通常よりも労働時間が増えた教員の話も出てくることも付け加えておこう)

家にパソコンやタブレットがなかったら……?

 だが、学校側が遠隔授業に準備万端であっても、全ての生徒に遠隔授業を受けるための環境が存在するわけではない。親がテレワークに使用するため子供が使用するための余分がない家庭もあれば、家庭環境によってはパソコンを持っていなかったりもする。家庭の裕福度で教育に差が出てしまうのは義務教育には理想的でないが、このような場合どうなるのか?

 内閣ウェブサイトはこのような場合、学校側が生徒達に遠隔授業を受けることができるように準備しなければならないとしている。

 なお、現在の状況で(ホームスクーリングをしている場合は別として)、「(遠隔)教育を受けさせない」という選択肢は義務教育には存在しない。なぜならそれは文字通り「義務教育」であり、これを受けさせないことは違法だからだ。遠隔教育に子供を参加させるのは保護者の責任である。

 つまり義務教育への参加に必要な環境は学校が整える義務があり、義務教育を子供に受けさせるという部分は親にその義務があるというわけだ。Rödskog skolaでもSaunalahden kouluでもパソコンかタブレットが必要な全生徒に学校が貸し出している。

 しかし、フィンランド全国の全学校がこの不測の事態に対応する準備ができていたわけではなかったようだ。南フィンランドのピュフター学校区ではパソコンが使える状況にない生徒が多く、なおかつ生徒に貸し出すためのパソコンが学校に足りなかった。この地域では、地元の企業家が有志から寄付を募り45台のラップトップを学校に寄付して事なきを得た。

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