ARを活用した現代の人形浄瑠璃? ARダンスボーカルグループ「ARP」の新しさ
このシステムによって、ARPのステージの舞台裏では、 歌や声を担当するキャスト、体のふりやダンスを担当するキャスト、 表情などを担当するフェイシャルキャストなど、大勢のプロフェッショナル集団が「生」の仕事をシンクロさせ、 遅延なくなめらかなリアルタイムなCGを実現している。また、舞台照明や影、効果音、観客が映り込む舞台袖のARカメラなど、すべての演出を同時に制御することで、目の前にステージが実在しているかのような効果を生み出している。
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や3Dメガネを使用せずにARを楽しめるという点では、世界初の常設3DCGライブホログラフィック劇場『DMM VR THEATER』と似ている部分があるかもしれない。ただ、ARPが斬新なのは「生」を重視している点だ。観客にライブの醍醐味である「一期一会」 を提供することに成功している。
ARPのライブを、共同プロジェクトでは古典芸能のひとつである人形浄瑠璃に例えている。「現代の人形浄瑠璃」「デジタル人形浄瑠璃」だ。人形浄瑠璃は、義太夫節の浄瑠璃を三味線で語るのに合わせて、3人の人形遣いが人形をあやつる演劇である。多数の匠が生命を持たない人形(2次元キャラクター)に「生」のパフォーマンスを吹き込んでいるという意味では、いろいろと共通点が多いのかもしれない。
コンベンションでは、ARPの根幹を成す『ALiS ZERO』システムをオープンイノベーション化していくことも発表された。これによって、リアルなアーティストとの共演ライブや、Vtuberとのコラボなど、さまざまなARライブエンターテイメントの可能性が考えられるという。特に、いわゆる「中の人」が演じている点が類似したVtuberは、ARPと相性が良さそうである。
また、海外展開の手始めとして、8月19日に行われた『KICK A‘LIVE』公演を、中国の大手生配信プラットフォーム『bilibili動画』で生配信した。最新のテクノロジー、それに日本の伝統芸能的な匠(プロフェッショナル)の技による演技が融合したARPが、世界へ本格的進出していく日はそれほど遠くないかもしれない。
■吉川敦
フリーライター。音楽と言葉が大好物。憧れの人物はアインシュタインとエルキュール・ポアロとアンディ・ウォーホル。