『ひぐらし』に『うみねこ』…竜騎士07氏の作品群から『SILENT HILL f』に通じるテーマを考察する

3月14日にコナミデジタルエンタテインメントが配信した「SILENT HILL Transmission」にて、サイコロジカルホラー「SILENT HILL」シリーズの完全新作『SILENT HILL f』についての情報が発信された。本作はシリーズ初となる日本が舞台で、岐阜県の下呂市金山町をモデルにした1960年代の「戎ヶ丘」で物語が描かれる。そしてシナリオライター・竜騎士07氏がストーリーを手がけているのが最大の特徴だ。
本記事では竜騎士07氏がシナリオを執筆したゲームを発売順にいくつかピックアップして網羅的に紹介し、作品に通底するテーマ性や「SILENT HILL」との相性について考えていきたい。
『ひぐらしのなく頃に』
『ひぐらしのなく頃に(以下、ひぐらし)』は「When They Cry」とも呼ばれる「なく頃にシリーズ」第1弾で、架空の集落「雛見沢村」を舞台にしたサスペンスミステリー。基本的に主人公・前原圭一の視点(例外も存在)で物語が進行するタイトルで、本編はサウンドノベル形式の出題編4話・解答編4話で構成されているが、ストーリー展開に影響を与える選択肢は存在しないのが特徴だ。昭和58年、親戚の葬式で東京に行っていた圭一が雛見沢へ帰ってくるところから物語はスタートし、村に伝わる伝統行事「綿流し」を軸にして発生する惨劇を回避するためにどうすればよいのかが描かれていく。各話中盤までのほのぼのとした雰囲気が、事件を機に突如豹変するギャップも話題となりながら、絆や連帯をテーマとしたストーリーが評価されている。

2002年に原作第1章「鬼隠し編」が発売され、徐々に口コミでヒットを記録し2006年にはテレビアニメ化を果たしている。その後もコンソール移植をはじめコミカライズ・小説化・実写映画化などあらゆるメディアを席巻し、社会現象的に広まったため、当時に思春期を過ごしたなら、何かしらの形で触れている方も多いだろう。2020年~2021年にはリメイクに見せかけた続編アニメとして『ひぐらしのなく頃に業/卒』が放映され、あらためてIPとしての強靭さをうかがわせた。そのため「竜騎士07氏と言えば本作だ」という人も多く、筆者も初めてのノベルゲーム体験が中学生の時分にプレイしたPC原作版『ひぐらし』だということもあり、鳥のインプリンティングのように脳に焼き付いた特別なタイトルだ。
『うみねこのなく頃に』
『うみねこのなく頃に(以下、うみねこ)』は、07th Expansionが制作したサウンドノベルで、ミステリーとファンタジー要素が融合したストーリーが特徴の「なく頃にシリーズ」第2弾。1986年10月、伊豆諸島の孤島「六軒島」で、資産家・右代宮家の親族会議が開かれるが、超自然的な殺人事件が発生して屋敷内は混乱に陥ってしまう。事件の背後には六軒島に伝わる「黄金の魔女・ベアトリーチェ」の伝説が関わっているとされ、主人公・右代宮戦人は「魔女の仕業か、人間の犯行か?」を巡り、ベアトリーチェと推理勝負を繰り広げながら、事件の真相を追い求めていく。

本作はクローズドサークルで発生した殺人事件という本格ミステリの形をとりながら、「魔法」という幻想要素が存在することで、アンフェアであり推理物ではないと言及されることもある。しかしファンタジーはあくまで表現の一種であり、赤や青が飛び交う推理合戦は本質ではない。論理だけの推理だと導き出せない「ホワイダニット(なぜ犯行に至ったか)」を考察するうえで、「チェス盤をひっくり返す」思考法や、物語の鍵となる言葉「愛がなければ視えない」に共通する、物事を多角的に俯瞰して相手に歩み寄る姿勢の重要性。「なぜ答えがシュレディンガーの猫箱に隠されているのか」「なぜ魔法を用いたミステリーという形で物語っているのか」を考えられる想像力が大切だ、というメッセージこそが『うみねこ』のコアだ。暴くべきではない真相には蓋をするべきだという結論は、ミステリーとしては思うところがある人もいるかもしれないが、思いやりと温かな愛にあふれたタイトルである。
各エピソードがメッセージボトルに端を発する作中作という構造から、作品全体が創作論の側面を強く持っており、「なぜ作者はこのような表現をしたのか」を探求する姿勢は、筆者のゲームレビューにおける「作品の背景を想像する」という思考軸の基盤に大きな影響を与えている。だからこそ、私が竜騎士07作品で一番思い入れがあり好きなタイトルは『うみねこ』なのだ。また、コミカライズ作品の完成度が極めて高いため、ゲームの補完として読み込むと満足できるだろう。
『ROSE GUNS DAYS』
『ROSE GUNS DAYS』は、ifの歴史を辿った第二次世界大戦後の日本と、多国籍化が進む現代2012年で交互にストーリーが紡がれながら、日本人マフィア「プリマヴェーラ」の成り立ちやアメリカ・中国によって統治下に置かれながら、懸命に生きた人々の軌跡が描かれる。物語は終戦後に復員したレオ・獅子神が、暴漢に襲われていたプリマヴェーラのマダム、ローズ・灰原を助けたことからはじまる。ローズは戦後の日本人が生き抜くための拠り所となるコミュニティを築こうとしていたが、戦後の裏社会を支配するギャングやマフィアなどの陰謀が絡み合い、徐々に抗争へと巻き込まれていく。

本作にはスターシステム的に右代宮戦人によく似た「フィリップ・バトラー」が登場したりするが、これまでの作品に色濃く表れていた伝奇・オカルト・ホラーといった要素は鳴りを潜めている。その代わり両作でも描かれていた群像劇を軸に、大人たちのハードボイルドな情感にのせて、やりきれなさ・無常観に満ちた人間ドラマを描く、どちらかといえば年齢層高めのタイトルだ。そして『ひぐらし』や『うみねこ』の半分となる全4編で構成されており、シナリオのまとまりが良いのも魅力で、竜騎士07氏の最高傑作としてあげるファンもいる隠れた名作である。コンソール・Steam移植がされていないため、やや入手手段が限られるが、PCダウンロード版も発売中。気になった方はチェックしてほしい。
『祝姫』
『祝姫』はDMM.comラボより2016年に発売された和風伝奇ホラーアドベンチャーで、その後日本一ソフトウェアより追加要素を実装したPS4/PS Vita版『祝姫 -祀-』が発売されている。主人公・煤払涼は煤払家に代々伝わってきた「男子は一定の歳を迎えると独り立ちしなくてはならない」という掟に従い、一人暮らしをするため須々田高校に転校してきた。そこで不気味な日本人形を抱える不気味な黒髪の少女「黒神十重」をはじめとするヒロインたちに出会うことからストーリーが幕をあける。

『ひぐらし』を下敷きにしつつ、呪いをテーマに恋愛ADVの文脈で描かれたタイトルで、明るくコメディ要素が混在した日常パートと、生理的嫌悪感を催すような陰惨なパートのギャップが強烈な作品。竜騎士07氏が手がけたタイトルのなかでも飛びぬけて“エログロ”に寄せた作風だが、わかりやすいシナリオ構成の効果もあり、入門作として勧めやすい一作だ。そして和遥キナ氏の美麗なキャラクターやスチルもあわせ、『SILENT HILL f』の「美しいがゆえに、おぞましい」というコンセプトに一番近いのではないかと考えている。現在プレイするにはSteamにて、『祝姫【国際版】』と『祝姫 -祀-』の追加要素がDLC化した「追加シナリオ『結姫』」を同時購入するのが一番手っ取り早いアクセス方法だ。
『幻想牢獄のカレイドスコープ』
『幻想牢獄のカレイドスコープ(略称:ゲロカス)』は、4人の少女が突如不気味な部屋に閉じ込められ、デスゲームに参加させられてしまう。プレイヤーは彼女たちに3種類のカード「断罪者(2枚)」「ピエロ」「死刑囚」を配ることで運命を左右することが可能。配られたカードの組み合わせにより12通りのパターンで物語が展開し、それぞれ異なるシナリオ展開が楽しめる。すべてのストーリーを読むことで真実が浮かび上がり、不思議と読後感が良いタイトルに仕上がっている。

『ゲロカス』は竜騎士07作品の特徴とも言える「キャラクターの豹変」と「ハイテンションな会話の応酬」にフィーチャーした怪作だ。制限時間5分のデスゲームというスピーディー展開で、美少女たちが顔芸をしながら悪趣味な罵倒を繰り返していく。同じキャラクターたちが参加するデスゲームという枠は共通しながら、与えられた役割によって行動や立ち位置が万華鏡(カレイドスコープ)のように変化する人間模様は一見の価値があるだろう。3月14日に続編『幻想牢獄のカレイドスコープ2』がリリースされたばかりで、1作目とセットになったパッケージ版も存在するためプレイしてみたい人はチェックしてほしい。
『LOOPERS』
『LOOPERS』はメインおよび単独シナリオライター作品ではないので本記事ではオミットしたが、竜騎士07氏が『Rewrite』以来にゲームブランド「Key」でシナリオを手がけたタイトルだ。ジオキャッシングをモチーフにした「宝探し×ホラー×泣き」というコンセプトで構成されており、同じ一日を無限に繰り返すループ世界から抜け出そうとする「ルーパーズ」たちの物語が描かれる。『祝姫』が『ひぐらし』の残酷性・伝奇要素にあらためてフィーチャーした作品であるとすれば、本作は『ひぐらし』で重要なテーマだった「絆・連帯」を、Keyの『リトルバスターズ!』を絡めて語りなおしたタイトルと言えるかもしれない。

本作はイラストレーター望月けい氏のキャッチーかつスタイリッシュな画風も相まって、これまで紹介してきたタイトルでも特に万人受けする方向性だ。ホラーテイストも控えめなため「白い竜騎士07作品」として他者へおすすめしやすいのもポイントである。さらに描き下ろしシナリオやイラスト、楽曲等を追加したパワーアップ版『LOOPERS PLUS』が2025年内に発売予定。オリジナル版では描かれなかったエピソードや後日談等が収録予定のため、気になっている人はリリースを待っても良いだろう。
「SILENT HILL」と竜騎士07氏の相性について
これまで竜騎士07氏が手がけた作品をいくつか振り返ってきたが、『SILENT HILL f』のシナリオライターに抜擢されたことで「SILENT HILL」シリーズとの相性が気になる人も多いだろう。
あくまで個人的な所感となるが「SILENT HILL Transmission」で竜騎士07氏本人が言及したように、同シリーズは登場人物の心の闇や罪などと視覚的に描かれた心象世界で対峙するという側面も強い。そして竜騎士07氏も人間の葛藤や残酷さを、恐怖という形で表現して乗り越える人間の描き方が卓越している。そして何より「SILENT HILL」と竜騎士07氏ともに、作品に「愛」というテーマが通底している点も類似性があり、日本が舞台の伝奇ホラーという表面だけではない根底に通ずる分かちがたさを思わせた。これからも双方のファンとして『SILENT HILL f』の続報に注目していきたい。
©竜騎士07 / 07th Expansion
©Konami Digital Entertainment
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©VISUAL ARTS/Key
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