流行った時にドヤ顔できる? 人狼系アドベンチャーゲーム『レイジングループ』の“読ませる力”
爆発的なヒットになっていなくても、面白いゲームはたくさんある。今回、ゲームライターの渡邉卓也が紹介するのは、ゲームに詳しくなくても、読むだけで物語の世界に引き込まれるアドベンチャーゲーム『レイジングループ』だ。読み始めたら手が止まらないという、本作の魅力に迫る。(編集部)
顔見知りが殺人鬼であるかもしれない恐怖
とても面白いゲームの話をしよう。だが、今回は普段あまりゲームを遊ばない人も安心して欲しい。なんせこの作品はほとんど読むだけなのだから。かといって舐めてはいけない。これはミステリものとしてかなり練られており、読み始めると止まらないくらいである。
また、この作品は発売からしばらくが経過しているが記事執筆時点ではそこまで爆発的な人気を得ていない。その理由はあまり露出がないからという点が非常に大きく、内容的には流行する資質を持ち得ている。一足先にこのゲームのことを知っていれば、流行った時にドヤ顔できるかもしれない。いずれにせよ、読んだら人に話したくなる一作なのである。
『レイジングループ』は、ひとりの青年が山奥で迷ってしまうことから話が始まる。彼はプライベートでちょっとした人間関係の破綻を迎え、それから自暴自棄とも言えるようなツーリングの旅へ出ることになる。その結果が迷子であり、ついでに事故も起こし、最終的にたどり着いたのは藤吉村にある休水(やすみず)という集落であった。
そして、ひとりの女性と出会う。芹沢 千枝実(せりざわ ちえみ)と名乗る彼女はとても親切で、このあたりは夜中にいろいろなモノが出て危ないからとアパートの部屋に泊めてくれたのだ。ところで今、彼女はなんて言った? シカやイノシシにクマだけでなく、“おおかみが出る”だと?
そう、休水という場所はだいぶイカれている。皿永(さらなが)とかいう川の周辺から人がくると、それを“よみびと”、つまり死んでから蘇った人がやってきたなどと言うのだ。おまけに夕方になれば異様に濃い霧が出てくる。もしその霧だらけの夜中に外へ出てしまったとしたら──、ひとの身体をしたおおかみに無残に殺されてしまうことであろう。迷信ではなく、本当に。
それにしてもおおかみはどこから出てきたというのか? 山の中に潜んでいて霧とともに出てくる……というわけではなく、休水に住んでいる人々の間に紛れ込んでいる。つまるところ、顔見知りが殺人鬼であるかもしれないのだ。いや本当に、突拍子もなくてイカれた考えだろう?
しかし実際に彼らは、「黄泉忌みの宴」なる話し合いを行い、毎日誰かひとりをくくり殺す。こうして人間として紛れ込んだ“おおかみ”を殺しきればひとの勝ち、逆にひと側が殺され尽せば負けだ。人狼ゲームそっくりの冗談もほどほどにして欲しいところだが、おおかみは実際に毎晩ひとりずつ狙って殺すのだから、休水の人々にとってこの儀式は本当にせねばならないことなのだ。