初代『スーパーマリオアドバンス』が保ち続ける特別感に“デラックス”の精神と起源あり

任天堂の携帯ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」と同時発売されたタイトルのひとつ『スーパーマリオアドバンス』。
名が表すとおり「スーパーマリオ」シリーズの完全新作……ではない。過去の「スーパーマリオ」シリーズをゲームボーイアドバンス向けにアレンジしたタイトルだ。具体的にはファミリーコンピュータ(ファミコン)向けに発売された『スーパーマリオUSA』の移植版である。

『スーパーマリオアドバンス』は、のちに続編が発売されてシリーズ化。最終的に4作品が出るに至っている。そして、続編も1作目と同じ、過去の「スーパーマリオ」シリーズを原作とするアレンジ移植作となった。
最初の『スーパーマリオアドバンス』が2001年3月21日に発売されて、2025年で実に24年だ。いまや「スーパーマリオ」シリーズの過去作はNintendo Switchで原作自体が復刻。携帯しながらでも遊べてしまう。結果、携帯ゲーム機向けの移植作たる『スーパーマリオアドバンス』シリーズは、わずかながら価値を薄めた感がある。
しかし、初代『スーパーマリオアドバンス』に関しては、いまだ特別な価値を保ち続けている印象だ。そもそも初代は、2作目以降の続編と根本的な設計思想が違う。原作にない新要素、システムを加えた「リニューアル版」とも称せる内容になっているのだ。
なぜ初代はそうなったのか? 考えるに初代は、『スーパーマリオブラザーズ デラックス』の精神を色濃く継承していたのが背景にあると推察する。
デラックスの名に相応しい作りが異彩を放った『スーパーマリオブラザーズ デラックス』
『スーパーマリオブラザーズデラックス』とは、任天堂の携帯ゲーム機「ゲームボーイカラー」向けに発売されたタイトル。1985年発売の名作アクションゲーム『スーパーマリオブラザーズ』のアレンジ移植版である。また、ゲームボーイカラー専用タイトルでもあり、モノクロ液晶の旧型ゲームボーイでは遊べない設計になっている。

元々は1999年に北米先行で発売。日本は2000年3月1日、「NINTENDO POWER(ニンテンドウパワー)」向けの新作タイトルとして発売された。「ニンテンドウパワー」とは、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されたゲームソフト書き換えサービスである。
供給形式の都合上、ゲームの購入には『GBメモリカートリッジ』なる、白いROMカートリッジを別途買う必要があった。カートリッジ自体もローソン限定販売で、ほかにもいくつか手続きを踏む必要があったのだが……長くなるので省略する。
話を『スーパーマリオブラザーズ デラックス』に戻すとして。内容は原作と同じ。横スクロールのステージクリア型アクションゲームである。マリオ(もしくはルイージ)を操作し、大魔王クッパに捕まったピーチ姫の救出を目指す。

原作との違いは画面レイアウト。ゲームボーイカラーの液晶解像度の都合により、全体的に原作よりも大幅に狭くなっている。これを踏まえて上下と右に視点を動かす操作を追加。画面に映らない敵、足場などを確認する手間が攻略時に生じる設計になった。
遊びにくさと難易度上昇の印象を抱かせる変更点だが、相応にフォローもある。特にセーブ機能はポーズすれば好きなタイミングで記録できて、コース単位で保存してくれる親切設計。「今日は1コースだけ」みたいな遊び方が可能になっている。
さらに全8ワールド32コースごとの特別な課題に挑む「チャレンジ」を始め、多数の新モードと新要素を追加。大幅なボリュームアップが図られ、盛りだくさんな内容に進化している。

とりわけ「チャレンジ」は、上級者も悲鳴をあげるほどの遊び応えを誇る。内容的にも新アイテムの収集要素などを用いて、原作の全32コースの深淵をあぶり出すとも言える作りが異彩を放つ。新たな遊びの導入で、知っているコースが“違ったなにか”に変わる体験は実に刺激的だ。
収録されている新要素がこの限りではないのも凄い。条件を達成すると、オバケの敵「テレサ」と競争するゲームモード「テレサレース」が遊べるように。さらに条件を達成すると、なんと続編『スーパーマリオブラザーズ2』が解禁!一部の要素とコースを削った縮小版ながら、ガッツリ遊べてしまうのだ!まさに至れり尽くせりのデラックス。

『スーパーマリオブラザーズ』自体は、1993年発売の『スーパーマリオコレクション』で一度リメイク済みである。本作はそれに続く2本目に当たるが、設計思想はまるで異なる。特に新要素周りはデラックスの極みで、名を体現する密度を持った作品に完成されている。
この『スーパーマリオブラザーズ デラックス』の精神と設計思想を初代『スーパーマリオアドバンス』は色濃く継承しているのだ。
たとえば『スーパーマリオアドバンス』には、「Aコイン」なる赤いコインを5枚集める収集要素がある。これは原作の『スーパーマリオUSA』には存在しない要素だ。しかし、『スーパーマリオブラザーズ デラックス』には「チャレンジ」のモードにて存在。その要素を装いも新たに導入しているのである。

クリア後コンテンツで、隠されたヨッシーのたまごを探す「ヨッシーチャレンジ」もそのひとつ。『スーパーマリオブラザーズ デラックス』の「チャレンジ」にも、(仕組みはやや異なるが)「ヨッシーのたまご」を探し出す遊びがあるのだ。
極めつけに、原作にはなかった新要素を追加する根本の方向性と設計思想も同じ。『スーパーマリオコレクション』にて、いちどリメイクされているところにしても、だ。
ゆえに初代『スーパーマリオアドバンス』は、『スーパーマリオブラザーズ デラックス』の事実上の続編とも言える。タイトルこそ違えど、根本の設計思想が共通する作品でもあるのだ。
「ファミコンの父」が率いた部署で編み出された“デラックス”なリメイク手法
さらに言えば、『スーパーマリオアドバンス』と『スーパーマリオブラザーズ デラックス』は制作スタッフも同じである。また、『スーパーマリオブラザーズ デラックス』は、座組の面から見ても珍しいタイトルだった。

『スーパーマリオブラザーズ デラックス』を制作したのは、当時の任天堂に存在した開発第二部。「ファミコンの父」とも称された故・上村雅之氏がリーダーを務めた部署だ。実は『スーパーマリオブラザーズ デラックス』のプロデューサーは上村氏なのである。
上村氏が率いた開発第二部は、ゲーム機本体の開発およびシステム設計を専門にしていた部署と言われる。また、スーパーファミコン向け衛星データ放送サービス『サテラビュー』の開発と運営も開発第二部が担当していた。

一方で、ゲームソフト開発は1991年発売の『マリオオープンゴルフ』しか目立った実績が無かった。しかし、1996年発売の『マーヴェラス もうひとつの宝島』を皮切りに開発第二部制作のゲームソフトが相次いで発売。『スーパーマリオブラザーズ デラックス』もそのひとつだった。
なぜゲームソフト開発に積極的になったのか? それについてはWEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」内の「樹の上の秘密基地」にある『コロコロカービィ』のインタビュー特集にて言及されている。簡単にまとめれば、『サテラビュー』の一段落と世情の変化を受け、ゲームソフトを積極的に作っていく方針に転換したようだ。
その時期に誕生した開発第二部制作のゲームのひとつに『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』がある。

1993年発売の『ゼルダの伝説 夢をみる島』のグラフィックをカラー化したアレンジ版である。実はこの作品で『スーパーマリオアドバンス』へとつながる開発第二部らしいリメイクの手法が確立されていた。原作の形を崩さず、独自の価値を加える手法だ。
『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』にはモノクロだった原作にはない新ダンジョン、新イベントが追加されている。この新要素が結構、手の込んだ作りをしているのだ。
とりわけイベントに関しては、カラー版のためだけに新たなスチル(1枚絵)を10枚以上も用意。それを収集する要素を設けて、全体的なボリュームアップを図っているのだ。また、新ダンジョンも数こそ1種類ながら、登場する敵はすべてオリジナル。楽曲も過去の『ゼルダの伝説』の楽曲を独自にアレンジした新曲を採用している。

あとに続く『スーパーマリオブラザーズ デラックス』を踏まえると、源流ここにありだ。実際は『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』と『スーパーマリオブラザーズ デラックス』の制作スタッフは異なる。だが、細かいところでは、デザイナーにシナリオライター(※加筆部分担当)など、数名の人物が共通して関わっているのが双方のスタッフクレジットより確認できる。
まさに開発第二部流の“デラックスな”リメイク手法が、その時から生まれつつあったと言える。そして『スーパーマリオブラザーズ デラックス』での発展を経て、『スーパーマリオアドバンス』へつながった。この一連の流れを踏まえれば、『スーパーマリオアドバンス』に特別感が備わったのも自然な運びとも言えよう。
世情の変化を経て、ゲーム作りに乗り出した部署のクリエイターたちが独自の手法を編み出そうとしていた。そんな過去を踏まえて初代『スーパーマリオアドバンス』を見ると、同作は特別な思いを込めたタイトルと言えるかもしれない。
後年、特別な価値が高まる流れも自然なものだった、とも言えるだろう。
続編にも手法が継承されていたら、『スーパーマリオアドバンス』シリーズはどうなっていたのか
ただ、残念ながら、初代の設計思想は以降の続編にまったく受け継がれなかった。

『スーパーマリオアドバンス2』以降の続編では、制作スタッフが一新されている。その影響か、設計思想も原作の忠実な再現が優先され、大胆な新要素やアレンジが見られなくなってしまったのである。
一応、『スーパーマリオアドバンス3』『スーパーマリオアドバンス4』には大がかりな新要素が追加されている。ただ、初代『スーパーマリオアドバンス』に比べると、“攻め”が弱い印象だ。
結局、初代の特別感は開発第二部のスタッフが居たからこそできた。それを証左する形になってしまったのには、少し皮肉に感じる。後年の特別感の高まりを思えばなおさらである。

もし、開発第二部のメンバーが参加し続けていたら、『スーパーマリオアドバンス』シリーズはどうなっていたのか? 独自の手法がさらに極まって、移植であり新作とも言える作品が生まれていたのだろうか? 結果的に幻に終わってしまったが、できればそんな“もしも”を見てみたかったところだ。
『スーパーマリオアドバンス』は『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』向けに配信中。続編も含む、シリーズ全作が2025年現在も体験可能だ。また、記事内で言及した開発第二部制作の作品もNintendo Switchで復刻している。

『スーパーマリオアドバンス』の特別感の起源にも当たる開発第二部の作品たち。それらをこの機に遊んでみてはいかがだろうか。

唯一、『スーパーマリオブラザーズ デラックス』だけ、本記事執筆時点で未配信なのが惜しまれるが……。しかも、同作は復刻に関して“いわく”がある。詳しくは以下の過去記事に任せる形で割愛する。
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ただ、似た経緯を辿った『ゲームボーイギャラリー3』はその後、Nintendo Switchで蘇った。2025年現在も『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』で配信中&体験可能だ。
『スーパーマリオブラザーズ デラックス』も続かないのだろうか? 「そろそろ、来てもいいのでは?」と思うこのごろである。