『容疑者 室井慎次』が描く“真の権威”とは? 『踊る』シリーズ“もう一人の主人公”の活躍

『容疑者 室井慎次』が描く“真の権威”

 14年ぶりとなる『踊る大捜査線』シリーズの新作『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が、9月18日に公開された。公開2週目には週末動員ランキングで1位を獲得し、公開10日間で観客動員149万人、興行収入21億円を突破。長い年月を経ても衰えぬシリーズの人気を示している。

 新作の公開に合わせ、フジテレビ系では過去のシリーズ作品を順次放送中。10月1日には、2005年公開のスピンオフ映画『容疑者 室井慎次』が放送される。

 青島俊作(織田裕二)をはじめ、湾岸署の懐かしい面々が帰ってきた『N.E.W.』。その中に室井慎次(柳葉敏郎)の姿がないことに、寂しさを覚えたファンも少なくないだろう。

 そもそも室井は、『踊る大捜査線』というシリーズにおいて、どのような存在だったのか。

 1997年の連続ドラマから振り返っても、室井は決して青島を支えるだけの脇役ではなかった。所轄の刑事として現場に立つ青島と、警察庁のキャリアとして組織の中から警察を変えようとする室井。立場も進む道も違う。それでも二人は、同じ理想を追い続けてきた。

 いわば室井は、青島とともに『踊る大捜査線』を牽引してきた“もう一人の主人公”。単なる上司と部下ではなく、ある意味ではバディとも呼べる関係だった。

 もっとも、二人は最初から同じ方向を向いていたわけではない。連続ドラマ序盤の室井は、警察組織のルールを重んじる典型的なキャリア官僚だった。事件の向こう側にいる人間を見ようとする青島とは、しばしば考え方がぶつかる。しかし、青島や恩田すみれ(深津絵里)、和久平八郎(いかりや長介)ら湾岸署の刑事たちと関わるうちに、室井は少しずつ現場の事情を汲むようになっていった。

 やがて二人の間には、一つの役割分担が生まれる。青島は現場から、室井は上から警察を変える。青島から「あんたは上にいろ」と託された室井は、その約束を果たすために出世の階段を上っていった。

 しかし、階級が上がれば思いどおりに組織を動かせるわけではない。『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』(1998年)で室井は参事官にまで昇進するが、実際に捜査の指揮を執るのは、さらに上の官僚たちだ。室井もまた、巨大な警察組織を構成する一人にすぎないことを思い知らされる。

 それでも室井は上を目指す。『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)では、沖田仁美(真矢ミキ)の更迭を受けて捜査の指揮権を引き継ぐと、階級や所属にとらわれず、捜査員たちから情報を集める。青島たちとの出会いを経て、室井が思い描いてきた捜査がようやく形になった瞬間でもあった。

 しかし、室井が理想に近づくほど、別の問題も生まれる。上の意向に従うだけなら、もっと楽に出世できたのかもしれない。だが、室井が青島たちから学んだのは、出世や組織内の思惑に左右されず、自らが正しいと思うことを貫く姿勢だった。だからこそ、上層部の論理だけで物事を割り切ることができない。

 当然、そんな室井は組織にとって扱いやすい人間ではない。上を目指しながら、ときに上の意向に背く。そのたびに、自らの立場を危うくする。エリート官僚でありながら、室井が抱える苦悩はどこか中間管理職にも似ている。

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