時代を先取りした“世紀末映画” 『逃亡者狂騒曲』デジタルリマスター版、10月10日公開へ

台湾映画『逃亡者狂騒曲』リマスター版公開へ

 映画『逃亡者狂騒曲 デジタル・リマスター版』が、10月10日よりユーロスペースほかにて全国順次公開されることが決定。あわせてメインビジュアルと予告編が公開された。

 本作は、台湾人監督として唯一カンヌ国際広告賞の金獅子賞を受賞し、台湾CM界のレジェンドとして知られるワン・チャイシアン(王財祥)監督の長編デビュー作にして、唯一の長編作品。1997年の第47回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、実験的な映像表現と大胆な映像言語によって、「台湾ニューシネマ」とは異なる1990年代台湾映画の新たな可能性を世界に示したが、台湾での公開はわずか数日で打ち切られ、その後長らく“忘れ去られた映画史の伝説”として語られる存在となった。

 1987年の戒厳令解除後、急速な経済成長と揺れ動く政治状況の中で生まれた、世紀末の台湾が抱える不安や焦燥を鮮烈な映像美で描き出す本作が、20年以上の時を経て、デジタルリマスター版として世界初劇場公開される。

 物語は、ニューヨークに憧れながら、夜はナイトクラブで働き、昼は恋人と過ごす青年を中心に展開する。祭りの夜、偶然殺人事件をビデオカメラに収めたことから、謎の殺し屋に追われる逃亡者となる。混沌とした台北の街をさまよううち、現実と白昼夢の境界は次第に曖昧になり、夢の地・ニューヨークからは疫病の知らせが届く。1990年代末の台湾に渦巻く焦燥と欲望を描き出す。

 主人公のダンサーを演じたのは、1990年代に舞踏団「無垢舞蹈劇場」の主要ダンサーとしてヨーロッパや日本の海外公演にも参加し、現在も舞台やダンスのほか、後進の指導など幅広く活動しているチェン・ホンレン(陳訇任)。共演には、ルー・シンユー(鹿心雨)、チェン・ジェイー(陳介一)、ホー・ジョンシアン(何宗憲)が名を連ねる。

映画『逃亡者狂騒曲 デジタル・リマスター版』予告編

 あわせて公開された予告編では、ロケット花火が飛び交い、夜の高速道路を疾走する場面や、街の暗闇、ライブハウスの眩い光を切り裂く音楽が映し出される。台湾を代表するロックバンド濁水溪公社のライブシーンも収められている。メインビジュアルには、炎の中、殺し屋に追われる主人公たちの姿が疾走感とともに切り取られている。

 また、本作の公開にあたり、伊藤亜和(文筆家)、宇野維正(映画ジャーナリスト)、ヴィヴィアン佐藤(ドラァグクイーン・美術家)、黒田育世(振付家・ダンサー)、佐野史郎(俳優)、松永天馬(アーバンギャルド)からコメントが寄せられている。

コメント

伊藤亜和(文筆家)

名前のない人々の中で、溶岩のように煮えたぎる焦燥。煙たい熱狂が、世紀末の不協和音の中に吸い込まれていくような映像美。用意された清潔な時代の上には決して表れない、自暴自棄的な潔癖に息を呑む。

宇野維正(映画ジャーナリスト)

ワン・チャイシアン監督が捉えた約30年前の台北の情景は、この世界への無力感とやり場のない怒りに満ちていて、同時代に活動していた他の台湾の映画作家のいずれとも違う。当時よりもむしろ2026年の現在、本作の切実さに共鳴する観客は多いのではないか。

ヴィヴィアン佐藤(ドラァグクイーン・美術家)

1997年台湾の「逃亡者」であるダンサー(もしくはチャイシアン監督)は、同時に1980年代のNYの幻影を追い求める「追跡者」でもある。
結果NYそのものを「逃亡者」へと変貌させてしまった。
そしてパラノイア(偏執)的でかつスキゾフレニア(分裂)的な在り方は、知らず知らずのうちに我々日本をも追いかけられる「逃亡者」に仕立てあげていた。

黒田育世(振付家・ダンサー)

どこで踊ろう。その地点次第で救うもの解かすもの暴くものの手応えが変わるだろう。彼は街の中空の世界を上下に隔てる透明なガラスの上で踊りたがっていた。二十数年封印された彼の踊りの本心は、これからやっと年月と上下という隔たりを救い解かし暴いていく。映画という浮力を帯びて、ガラスが割れてもまだ踊り、記す。

佐野史郎(俳優)

まるで肌をサンドペーパーで撫でられるような映像、音楽、言葉…物語を追うより先に否応なく体が反応してしまい、1990年代の台湾に放り込まれる。
全編を覆う「詩」のまなざし。
国家、経済、家族といった共同幻想体系を容赦なく解体させ、観るものに如何に生きるのかと突きつける。
30年ほど前、確かにそうした共同幻想の不確実性に、バブル経済崩壊後の日本も揺らいでいた。
知識や経験を重ねた現在。
台湾ヌーヴェルヴァーグともいうべき、今だからこそ尚更に上映の価値あるこの作品から、この先の幸の指針を読み取ることができるだろうか?
国旗の代わりに掲げられ、風になびくモノの姿が心に残る。

松永天馬(アーバンギャルド)

今から逃げる。
過去から未来から逃げる。
バイクが残した轍は詩のように書き殴られた。
それは青春と呼ぶには無軌道で、映画と呼ぶのに相応しい。

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■公開情報
『逃亡者狂騒曲 デジタル・リマスター版』
10月10日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
出演:チェン・ホンレン(陳訇任)、ルー・シンユー(鹿心雨)、チェン・ジェイー(陳介一)、ホー・ジョンシアン(何宗憲)
監督・脚本・撮影:ワン・チャイシアン(王財祥)
製作:ワン・チャイシアン(王財祥)、ヤン・バオホイ(楊寶輝)
音響:ドゥ・ドゥーチー(杜篤之)
音楽:ツォン・スーミン(曾思銘)
配給:Cinema Drifters・大福
協力:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
原題:給逃亡者的恰恰/英題:A Cha-Cha for the Fugitive/日本語字幕:神部明世
1997-2023年/83分/台湾/カラー/DCP/ステレオ
©FOUNTAIN FILMS CO. All Rights Reserved.
公式サイト:https://note.com/chachatw_2026

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