松山ケンイチが『Tシャツが乾くまで』にもたらしたもの “充”が放つ得体の知れない恐怖

『Tシャツが乾くまで』松山ケンイチが怖い

 いま、展開がもっとも気になるドラマ作品として、多くの方が『Tシャツが乾くまで』(TBS系)を挙げるのではないだろうか。不在でありながら、絶えずこの物語の最重要人物であったキャラクターが、ついに姿を現し、静かだった日常をかき乱し始めた。その人物とは、本作の主人公・瀬尾咲子(蒼井優)の夫である瀬尾充。演じているのは松山ケンイチである。

 本作は、とある2組の家族の幸福な日々が、崩壊するところから始まった。主人公・瀬尾咲子の夫である充と、園田樹生(中島歩)の妻・あずさ(夏帆)が、バスの転落事故に遭ったのだ。

 咲子と樹生は、互いの愛する人を失った。しかもそれぞれの愛する者同士が、不倫関係にあったかもしれない。ふたりの心の内には、やり場のない複雑な感情が込み上げてくる。この複雑な感情こそが、物語序盤の視聴者の関心を集めてきたものだったのだろう。ところが、充は生きていることが分かった。咲子のもとに帰ってくることはないが、いまもどこかで生きている。この不可解な事実が、彼女と樹生の内なる複雑さをより複雑なものとしてきた。

 それは私たち視聴者も同じ。最初の頃は咲子たちの置かれている状況に思いを馳せ、充の影を追っては胸を痛めてきたが、しだいにこの充という人間に対する興味のほうが勝ってきた。そして、劇中の時間にして一年という長い時を経て、ついに充が現れた。こうして『Tシャツが乾くまで』はいま、その展開がもっとも気になる作品となったのである。

 充役の松山はデビュー以来、俳優としてつねに第一線を歩み続けてきた。代表作のひとつである『デスノート』(2006年)であの“L”を演じたのは、いまからちょうど20年も前のことだ。2026年は『リブート』(TBS系)、『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)、『時すでにおスシ!?』(TBS系)、そして本作と、プライムタイムにはいつも俳優・松山ケンイチの存在がある。熱のこもった演技から、肩の力の抜けた芝居まで。この2026年の私たちの誰もがこれでもかと、彼の表現力の豊かさと柔軟性に打ちのめされているのではないだろうか。

 本作の「相関図」をチェックすると、充の紹介ページには“優しく穏やかな性格だが、飄々としていてどこか掴みどころがない。誰に対しても優しいがゆえに八方美人な一面もあり、独特の空気感で周囲を魅了する無自覚な人たらしタイプ。”と記されている。たしかに彼は、温厚で気遣いができる人物である一方、その言動に触れてみても、どのような人間なのかまではうまく掴めない。そして彼の物腰の柔らかさに接していると、その優しさは咲子だけに向けているものではないと分かる。まさに八方美人。たしかに人たらしなのだろう。

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