【今夜放送】『風の谷のナウシカ』漫画版を知っているとより楽しめる“残酷な世界観”

漫画版でもクシャナに率いられたトルメキアの軍隊は風の谷に来るが、探していたのは巨神兵ではなく巨神兵の復活に必要な秘石。そのトルメキア軍を脅かそうと、敵対している土鬼(ドルク)が映画版と同じような方法で王蟲の大軍をけしかけるが、風の谷で復活した巨神兵が、庵野秀明渾身の作画による凄まじいパワーを見せて、王蟲を焼き払うようなことは起こらない。

ただし、王蟲を宥めて腐海へと還すナウシカの異能ぶりはしっかりと描かれる。程なくクシャナは去り、ナウシカはドルクと戦争しようとしているトルメキアに応召されて風の谷を出て、クシャナの隊と合流する。そこから実に山あり谷ありの冒険を経て、先に紹介したクライマックスへと向かっていく。その中で、蟲と通じ合ったナウシカの神秘的な力がだんだんと知れ渡り、ドルクの民から一目置かれる存在になっていく。
ナウシカは、ドルクによって蟲すらも殺すほど毒性が高められた腐海の植物が一種の生物兵器として使われ、それを自分たちにとっても脅威だと感じた蟲たちが大量に襲来する大混乱の中で、必死に事態を終息させようとする。その後も、ドルクが復活させた巨神兵を、風の谷で死んだラステルという少女から密かに預けられていた秘石によって目覚めさせる。

映画版では破壊と暴力の権化だった巨神兵が、漫画版ではオーマと名付けてくれたナウシカを母のように慕い、やがて知性を発達させてナウシカとともに世界の命運を握る存在になっていくから面白い。映画版で風の谷も蟲も誰も彼も守ろうとする優しいナウシカを知った人には、戦乱の中で巨神兵を従えて進むナウシカなんて見たくないと思うかもしれない。
それでも、やはりナウシカは主人公だ。世界を統べる者たちから関心を抱かれ、世界の真実へと近づいていき、そして知る。腐海に沈みつつある今の世界が行き着く先を。そこに生きる者たちにいつか訪れる驚くべき運命を。
映画版の優しいナウシカだったら、その運命を受け入れた可能性はゼロではなかったかもしれない。永劫まで命が繋がれていくことにこそ意味があると考えて、犠牲になる道を選んだかもしれない。

けれども、漫画版のナウシカは優しいだけではない。2時間の映画の中で周囲の者たちだけを救って讃えられる甘い存在ではない。今の世界に生きている大勢の者たちが、自らの手で運命を選び取ることが大切なのだと確信して、冒頭に掲げた言葉を叫ぶ。血を吐いてでも自分たちの手で朝を迎え、飛び続ける道を選び取る。それがどれだけ残酷な所業の先にあるものだとしても。
そんな漫画版の『ナウシカ』が、もしも新しいアニメとして描かれたとしたら、映画版の『ナウシカ』や他の作品を観て宮﨑監督のファンになった人たちが、どう思うかに興味が浮かぶ。映画という2時間から2時間半で完結する時間の中で、感動に浸れる物語世界を描いて観客を喜ばせてきた宮﨑監督が、一方的な正義では語れない複雑な世界を描いていたことを驚き、非難を浴びせ始めるとしたらそれもまた面白い。もとより神棚に祭り上げられた自分を喜ぶような宮﨑監督ではないだろうから。
だからこそ、アニメシリーズとして『風の谷のナウシカ』の完全版を観てみたい。宮﨑監督自身が手がけることが現実的ではないと分かっていても、その目配せが届くうちに何とかして実現してほしい。誰が監督にとか誰がナウシカの声にとは今の段階では予想がつかないが、候補なら監督は庵野秀明で声は早見沙織をといった具合に、いくらでも挙げられる。挙げていく楽しみもある。それが当たったと喜ぶにしても、違っていたと嘆くにしても、そうした気持ちになれる瞬間の訪れを願ってやまない。
■放送情報
『風の谷のナウシカ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、8月14日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大、ノーカット放送
原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:高畑勲
音楽:久石譲
声の出演:島本須美、納谷悟朗、松田洋治、永井一郎、榊原良子、家弓家正 ほか
©1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H





















