『風の谷のナウシカ』のマネしてみたいセリフ 言葉に表れたナウシカとクシャナの思い

『風の谷のナウシカ』のマネしてみたいセリフ

 10年ぶりの長編アニメ映画となる『君たちはどう生きるか』の公開を前に、宮﨑駿監督が1984年に手掛けた『風の谷のナウシカ』が7月7日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)に登場。既に数え切れないくらいテレビ放送され、ビデオやBlu-rayでも鑑賞し、劇場でリバイバル上映されていても、一度観始めると繰り出される物語と映像、そして登場人物たちの台詞に引きつけられてしまう。『風の谷のナウシカ』で紡がれる言葉のどこに、それほどまでの力があるのだろう?

 1984年春の映画館で『風の谷のナウシカ』の上映が始まった瞬間から、腐海があって王蟲が動いてメーヴェが飛ぶ映像に目は釘付けとなり、耳はナウシカの澄んだ声でいっぱいになった。

 『風の谷のナウシカ』は、当時興行的に失敗作と言われながらも、アニメファンの間でジワジワと人気を獲得していった『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の宮﨑駿監督が、5年ぶりに発表する劇場アニメ。しかも、『カリオストロの城』で可憐なクラリスを演じた島本須美が再びヒロインを演じるということで、『風の谷のナウシカ』に対するアニメファンの関心はとてつもなく強かった。

 そんな、待ちに待った人たちの中へと送り込まれた島本須美の声で発せられるナウシカの台詞は、一字一句が女神による信託のように聞こえた。実際に物語の中である種の女神となるナウシカの言葉には、諭され励まされ癒やされ導かれるところが多くある。例えば冒頭。ダンゴムシがとてつもなく大きくなったような異形のモンスターが人間を襲っている場面で、ナウシカは「王蟲、森へお帰り! この先はお前の世界じゃないのよ! ねえ、いい子だから!」と叫ぶ。

 この少女は、どうしてモンスターを敵として憎み撃退しようとしないのか。映画に先行して宮﨑駿監督によって描かれていた漫画『風の谷のナウシカ』を読んでいた人なら、その理由は分かっていたが、映画で初めて作品に出会った観客にとって、ナウシカというヒロインがモンスターから地球を守る正義のヒロインとは違った存在であることが、この台詞から何となく伝わってきた。

 その後、毒の胞子を吐き出す樹木で被われている腐海は、実は世界を清浄にするシステムで、その腐海を守っている王蟲をはじめとした蟲たちも世界にとっては敵ではないことが判明。ナウシカは、自然との共生を願っていることが明らかになる。たとえ敵であっても争い殺し合うようなことが嫌いな優しい少女であることも。

 そんなナウシカが、人間によって傷つけられた王蟲の子供を掻き抱きながら、「怒らないで。怖がらなくていいの。私は敵じゃないわ」「ごめん、ごめんね、許してなんて言えないよね。ひどすぎるよね」と涙ながらに語る台詞は、種族を問わず愛情を向ける彼女の優しさを、もっともよく表したものだ。

 「動いちゃだめ、体液が出ちゃう。いい子だから動かないで」と言って酸の海に入ろうとする王蟲の子供を押しとどめようとし、自分が押されて足を酸の海に浸した瞬間に出す「ああっ!」という叫びの傷ましさは、島本須美の渾身の演技もあって観ている人にも伝わってくる。それでも王蟲を責めず、「優しい子」と労るナウシカに身をなぞらえて、何かと気ぜわしいこの世界で冷静であり続けねばと思わせる。まさに人類を導く女神だ。

 だからといって、腐海に世界を委ねて人類は滅びてしまえば良いのだと思えるかというと、やはり生き続けたいというのが生物としての本能だ。そうした人類側に立って腐海や王蟲と対峙する、トルメキア王国のクシャナ殿下が放つ数々の言葉にも、強く惹かれてしまう。

 風の谷へと乗り込んで来たクシャナは言う。「かつて人間をしてこの大地の主となした奇跡の技と力を我らは復活させた。私に従う者にはもはや森の毒や蟲どもにおびえぬ暮らしを約束しよう」。

 海から吹く強い風によって風の谷は胞子から守られ、腐海に沈まずにいた。それでも少しずつ流れてくる瘴気によって肉体を冒され、死んで行く者は後を絶たない。谷の外ならなおのこと、腐海との戦いは熾烈を極めていただろう。そうした人類が生き残るためにあがくことを誰が止められるだろうか。

「お前たちに残された道はひとつしかない。巨神兵を復活させ列強の干渉を排し、奴と共に生きることだ」

 翌1985年にTVアニメ『機動戦士Zガンダム』でハマーン・カーンを演じ、圧倒的なカリスマ性を示して「恥を知れ、俗物!」と言われたいファンを続出させた榊原良子にこう言われれば、屈したくなる気持ちも分かる。

 鎧を外すと腕がなく、さらに「我が夫となる者はさらにおぞましきものを見るだろう」と話すクシャナの言葉は、自分に危害を加えた蟲への怒りを超えて、人類そのものに迫る腐海と蟲への憤りを感じさせる。だからこそ、クシャナが巨神兵と呼ばれる一種の人造人間を持ち出し、「焼き払え! どうした、それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か!」と叫び、「なぎ払え! どうした化け物、さっさと撃たんか!」と王蟲の大軍を蹴散らそうとする場面で、共に台詞を口にして人類の強さや、科学の偉大さに酔いしれたくなる。

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