『風、薫る』はなぜ新しい朝ドラとなったのか “生きるための看護”が切り拓いた視点

排泄物用の穴を掘り、横沢(井上祐貴)に「伝染を抑えるには毎日出る大量の排泄物を処理して、清潔を保つことが肝要。これが医療だ」と語る黒川。それを聞いて、村の医者がなにか感じ入ったような顔になる。それまで医者ですらそういう認識がなかった時代なのだ。帝都医大病院だってバーンズ(エマ・ハワード)が来なかったら清潔を重視していなかった。
やがて、反発していた村人たちも穴を掘る手伝いをする。長太郎が建物の外から「おっかあ!」と励ましの言葉を投げかけるのを聞きながら、村人たちが黙々と穴を掘り始める描写は、彼らがいまやれる最適解を選んだことを物語る。

現にいまも、猛暑のなかで災害に遭った場合、水が使えない場合、どうやって清潔を保つかが課題となっている。生きていれば汚れるのは抗えない。汚れとどうつきあっていくかはとても重要なことなのだ。そう思うと、人間が必ずしも善意だけではいられないこととも重なって見えてくるような気がした。やがてりんたちの奮闘努力の甲斐あって赤痢が収束し、りんは命と向き合う自信を取り戻す。過去、父の死が自分の判断ミスではなかったかという後悔もリベンジできたようだ。
看護婦に戻るため、舎監を辞めることを決めたりんに、望月校長(関智一)が言う。
「りんのような生き方を女子生徒がうっかり夢見て転んだ日には目も当てられない」と、自分にはりんのような生き方はできないが、「(りんのように)人と違う道を行く人を邪魔しねえで応援できる人になれと指導します」と。
この校長、なかなか良いことを言う。常識という物差しではかりきれないことは世の中にはあるものだ。『風、薫る』のキャッチコピーはまさに「道をはずれた人から、いつも道は生まれた。」である。第19週はこのコピーのようなりんの常識でははかりきれない生き方が強調された週であった。と同時に、このドラマの看護や清潔という着眼点がこれまでの朝ドラではフォーカスされてこなかったものであることも明確になった。

ところで。第18週のラストでシマケン(佐野晶哉)と海で「いとおしい」という言葉を噛み締めていたりんだが、そのあとどうなったのかは第19週では描かれない。
シマケン、直美、環(英茉)が東京に帰るのを見送ったあと余韻に浸る間もなく赤痢が発生。帰りの駅で直美たちは赤痢が発生したという情報を耳にし、りんならきっと看護に向かうと踏んだ直美はシマケンに環を預けて単身村に向かった。
りんが黒川に請われて村に向かい、看護婦の本領を発揮しているところ、手助けに現れた直美はりんに「(環を)任せてください。信じてますから」というシマケンの伝言を伝える。「信じています」はりんが必ず看護婦として人々を救うという意味だろうか。りんとシマケンの話は第19週ではこれだけ。でもきっと「信じています」という意味深な言葉にりんは励まされたことだろう。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK




















