『映画ちいかわ』エンディング曲「机さする」から“その後”を考察 隠された“いつか”の意味

そしてこの曲には、花瓶と並んでもう1つの約束が登場する。

〈あの場所に いつか行ってさ〉
〈見つけようね 約束〉
「あの場所」がどこなのかは、歌詞だけでは断定できない。ただ、映画本編の直後に流れる曲であることを踏まえれば、ちいかわたちが旅をした島を重ねることはできるだろう。
では、そこで何を「見つける」のか。それは、ヒトハとフタバが長い時間の末に選んだ、2人なりの答えの意味ではないだろうか。
もっとも、それはあの日の出来事に白黒をつけたり、2人の選択を正当化したりすることではない。島民を犠牲にしてまで秘密を守り続けた行為は、ある意味では2人が背負う罪でもある。それでも、電池で生きながらえる体になってなお、震えながら互いの手を取り、“永遠の命”を分かち合う。その選択の本質にあるのは、何よりも互いを思う強いつながりだ。

ちいかわたちがどれほど長く生きるのかは分からない。けれど時が流れ、花瓶にもっとたくさんの思い出を飾った先で、目の前にいるハチワレと再びあの場所を訪れるとしよう。その〈いつか〉は、自分や相手の“命の終わり”を意識するほど、ずっと先の未来なのかもしれない。そのとき初めて、あの日のヒトハとフタバが“永遠の命”を選んだ思いに、ちいかわはまたほんの少し近づけるのではないだろうか。
花瓶に思い出が増えていくことも、再び島を訪れたときに見えるものが変わっていることも、時間が流れるからこそ起こる変化だ。そう考えると、「机さする」で繰り返される〈いつか〉には、今と未来は同じではないという前提があるように思える。
気持ちも関係も、見える景色も変わっていく。今は分からないことが、分かるようになるかもしれない。反対に今抱いている感情を、明日の朝には〈そんなんじゃないのかな〉と手放している可能性もある。「机さする」が選ぶのは、変わらない“永遠”ではなく、変わることを受け入れた先にある「いつか」なのだろう。

〈今 机さする〉
机に触れながら、ちいかわは言葉にならない気持ちを抱えている。未来の〈いつか〉と、何もできない〈今〉。その間に横たわる距離が、机をさするという何気ない所作に表れているのではないか。
最後に触れておきたいのが、オープニングテーマ「くつずれ」がハチワレの歌として示されている一方、「机さする」には「歌 ちいかわ」と明記されず、歌唱を担当する青木遥の名前のみが記されていることだ。

ちいかわが実際に心の中で何を考えていたのかは、実のところ誰にも分からない。いつも通りの日常に戻ればまた草むしりや討伐に勤しみ、本稿で辿ってきたようなことなんて、まったく考えていない可能性だって十分すぎるほどにある。
だからこそ私たちは、青木の歌声を通して、ちいかわの胸の内にあったかもしれない言葉を想像する。さまざまな解釈のどれか1つを正解と決めつけるのではなく、その向こうにある見えない背景へと思いを巡らせて。その行為は、ヒトハとフタバの事情を完全には知り得ないまま、分からないなりに理解しようとしたちいかわの姿と、どこか重なるのかもしれない。
■公開情報
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
全国公開中
キャスト:青木遥(ちいかわ)、田中誠人(ハチワレ)、小澤亜李(うさぎ)、井口裕香(モモンガ)、内田雄馬(ラッコ)、淺井孝行(くりまんじゅう)、島袋美由利(シーサー)、春海百乃(古本屋)、最上嗣生(島二郎)、鈴木みのり(セイレーン)
原作・脚本:ナガノ
監督:及川啓
キャラクターデザイン:辻智子
コンセプトアート:橋本真樹
プロップデザイン:高妻匠
色彩設計:長井彩香
美術監督:眞﨑萌
CG監督:中野祥典
撮影監督:岡﨑正春
編集:高橋歩
音響監督:土屋雅紀
音響効果:倉橋裕宗(オトナリウム)
音楽:トクマルシューゴ/上水樽力
アニメーションプロデューサー:溝口侃
アニメーション制作:サイピク
製作:川上洋一、古澤佳寛
エグゼグティブプロデューサー:松崎容子
プロデュース:今福太郎
プロデューサー:小峯雅隆、障子直登
宣伝プロデューサー:林原祥一、斎藤愛子、狩野裕明
製作幹事:QTORY inc.
配給:東宝
©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会
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