『ガス人間』の大胆なリメイクを分析 『ガス人間第一号』との違いと受け継がれた問い

しかし『ガス人間第一号』が、いまだ映画ファン、特撮ファンから愛され続けている理由は、ガス人間というギミックの秀逸性や視覚効果の完成度のみに留まらない。いや、むしろ世界に居場所がなくなってしまった男と女の、相思相愛とは言い難いラブロマンスこそが名作の名作たる由縁であろう。
水野は、舞踊家の春日藤千代を深く愛していた。崇拝と言っていい。航空自衛隊のパイロットになる夢を絶たれた彼は、図書館勤めで“青春をすり減らす”ばかりの毎日を送っていたが、演目のための資料を求めて職場を訪れた藤千代に心を奪われ、銀行強盗で得た大金で彼女の活動を支援するようになる。藤千代もまた、その金が決して清廉なものではないと理解しながら受け取ってしまう。ここで興味深いのは、彼女自身が水野をどう思っていたのか、最後まで明確に描かれないことだ。水野を愛していたのか。それとも利用していただけなのか。あるいは、その両方で揺れ動き続けていたのか。八千草薫の名演によって、その答えは観客の解釈に委ねられている。
また、ガス人間となった水野という人物も非常に興味深い存在だ。彼は藤千代を所有したいのではない。彼女の成功を願い、その舞台を支え続けることに人生の意味を見出していた。自由に消えたり現れたり、欲しいものは何だって手に入る。どんなに威張ってるヤツでもその気になればいつだって消せる――それだけの力を持つ男が、いわば“推し”にすべてを注ぐわけだ。推し活、弱者男性などという言葉が一般的になった現代において、水野のような生き方に共感できる観客は、公開当時よりも各段に増えたに違いない。

たとえば、先行きのない地下アイドルグループに熱を上げる男が、ひょんなことからガス人間となってしまい、資金援助のために犯罪に手を染めるといった現代的リメイクも可能だったはずだ。安直といえば安直だが、熱愛が露呈したメンバーを爆殺するガス人間なんてサブプロットも、それなりに盛り上がりそうな気がしなくもない。だが、今回はそういったストレートなアプローチが選ばれることはなかった。最初に述べたように、まるで別物のストーリーに仕上がっている。かなり大胆なリメイクと言っていい。しかし、その違いを辿っていくと、Netflix版『ガス人間』が『ガス人間第一号』から受け継いだものが、おのずと見えてくる。

すなわち超常的な力を持つに至った存在と、それを必要とする人物との共犯者的な関係性だ。今回のガス人間は、水野のように自分の意思を持っているのかどうかが明確にされてはいないものの、その力を以て自らの目的を果たそうとする女性が登場する。両者の間には愛情も恩義もあったが、彼女がガス人間の力を利用していたこともまた事実だ。やがて辿る運命も含めて、まさに藤千代の写し鏡と捉えることができよう。驚くほど似ていない両作だが、その根底に流れるものは決して変わっていないのだ。かつて『ガス人間第1号』が問いかけたものは、半世紀以上の時を経た現在もなお、その形を変えて生き続けている。
■配信情報
Netflixシリーズ『ガス人間』
Netflixにて世界独占配信中
出演:小栗旬、蒼井優、広瀬すず、林遣都、UTA、芋生悠、伊島空、こばやし元樹、古館寛治、川瀬陽太、野村周平、中島歩、斉藤柚奈、柊木陽太、三河悠冴、松浦祐也、モーリー・ロバートソン、吉原光夫、三石琴乃、近藤芳正、和田光沙、髙嶋政宏、賀来賢人、森川葵、原日出子、中野英雄、夏川結衣、酒向芳、ピエール瀧、岡部たかし、青木崇高、竹野内豊
監督:片山慎三
脚本:ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ
原作:『ガス人間第一号』(監督:本多猪四郎/脚本:木村武)
エグゼクティブ・プロデューサー:ヨン・サンホ、市川南、大田圭二、臼井央、佐藤善宏(Netflix)
企画・プロデュース:馮年、呉良次
プロデューサー:小野田壮吉、ヤン・ユミン
企画:山内章弘
VFX:白組
VFXスーパーバイザー:髙橋正紀、新堀巧
企画・製作:東宝
共同企画・制作:WOWPOINT
制作プロダクション:TOHOスタジオ
配信:Netflix
作品ページ:https://www.netflix.com/title/81714240























