『ミッドナイトタクシー』はなぜ心に響くのか 兵藤るりが描く“訳ありな人生”の機微

『ミッドナイトタクシー』はなぜ心に響く?

 夜の街を流す女性タクシードライバー・象子(古川琴音)が、さまざまに「訳あり」の乗客たちの悲喜交々を見つめながら、30歳を目前に自らの人生と対峙していく夜ドラ『ミッドナイトタクシー』(NHK総合)が6月25日放送の第16回をもって折り返しを迎える。

 本作はタイトルが体現するとおり、夜のタクシーという密室空間で繰り広げられる人間ドラマだ。運転手と客という、いわば「通りすがり」の関係性ながら、わずか数十分間の車内でのふれあいを通じて、ときに人間の真髄を垣間見る瞬間がある。主人公が女性ドライバーというところに現代性があり、脚本家にとっては腕が鳴る題材ではなかろうか。

 女性タクシードライバーを主人公に据えた印象的な作品といえば、“本家”『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)へのオマージュをふんだんに取り入れつつ、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)と元ダンサーの照生(池松壮亮)の恋愛を回顧する『ちょっと思い出しただけ』(2022年)が思い出される。

 脚本家の岡田惠和が『ちょっと思い出しただけ』の伊藤沙莉を観て女性タクシードライバーという設定に魅力を感じ、『日曜の夜ぐらいは...』(2023年/ABCテレビ・テレビ朝日系)の主人公のひとりである翔子(岸井ゆきの)の職業をタクシードライバーにしたと、自身のラジオ番組で語っていた。

 こうした流れがあるだけに、「女性タクシードライバーを主人公にした映像作品」のハードルは、現時点でかなり上がってしまっているというのが正直なところだ。しかし、脚本を手がける兵藤るりがこの設定を巧みに乗りこなしている。

清原果耶主演『マイダイアリー』は傑作間違いなし? 脚本家・兵藤るりの作家性を読み解く

清原果耶主演の連続ドラマ『マイダイアリー』が10月期のABCテレビ・テレビ朝日系「日10ドラマ枠」で放送されることが、8月1日に…

 社会人1年目の主人公・優希(清原果耶)が大学時代を振り返る『マイダイアリー』(2024年/ABCテレビ・テレビ朝日系)で、2025年度向田邦子賞を史上最年少の28歳で受賞した兵藤。『ミッドナイトタクシー』と放送時期が重なった4月クールのドラマ『時すでにおスシ!?』(TBS系)の脚本も手がけており、今最も注目すべき脚本家と言っていい。

 兵藤は『ミッドナイトタクシー』と同じ「夜ドラ」枠の『わたしの一番最悪なともだち』(2023年/NHK総合)で初めて連続ドラマを手がけ、この頃からすでに、人間洞察の深さと台詞の洗練性が際立っていた。就活の崖っぷちに立たされた主人公のほたる(蒔田彩珠)が、何でもできる幼なじみの美晴(髙石あかり)の経歴とキャラクターを借りるという「チート」を行うことで第一志望の企業に就職を果たす。しかしそのことでほたるは、どんどん自分で自分の首を絞めていく。

『わたしの一番最悪なともだち』の“ともだち”とは誰? 脚本・兵藤るりの卓越したセンス

昭和の「没個性」から平成の「個性重視」、そして令和の「多様性重視」ーー。社会が変われば人々の悩みの形も変わる。10月12日に最終…

 兵藤は各所のインタビューやコメントで、大学生の就活の苦しみを描いた『わたしの一番最悪なともだち』も、社会人1年目の主人公が大学時代を回顧する『マイダイアリー』も、自身の経験を多分に注入したと語っている。若い書き手の圧倒的な強みは、まだ鮮明な記憶が残る「自らの来た道」を瑞々しい筆致で描くことができる点だ。

 しかしそればかりでなく、兵藤が作家として抜きん出ているのは、自身の経験の外に存在する人物や現象に対する観察眼と想像力(創造力)の深さ、引き出しの多さである。主人公を取り囲む、親や、「人生の師」、年長者。そうした人々の思いや背景の描き込みが実に的確である。

 6月9日に最終回を迎えた『時すでにおスシ!?』では、「年長者」と呼ばれる側を主人公に据えた。シングルマザーとして一人息子を育ててきたみなと(永作博美)が、息子の就職を機に、鮨職人の専門学校に通いながらセカンドライフを模索するという物語。「空の巣症候群」に思い悩むみなとの心のひだを丹念に描き出しており、SNSやネットのレビューサイトでは「20代の脚本家が、50歳の主人公の心情をこんなにもリアルに書けるなんて」という感想が引きも切らない。

 こうした兵藤の並々ならぬ観察眼と人間洞察が、『ミッドナイトタクシー』に登場する乗客や象子を見守る周囲の人々の造形に、よく現れている。兵藤が創り出す、ひとりとしてステレオタイプのいない、色とりどりの人物たちが物語をひときわ豊かにしている。

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