『月夜行路』は大人の“過去との向き合い”を描いてきた “名作古典”と“個人の生”との共通点

『月夜行路』は“過去との対話”を描いた 

 波瑠が主演を務めるドラマ『月夜行路 -答えは名作の中に-』(日本テレビ系)が、いよいよ最終回を迎える。

 銀座のバー「マーキームーン」のママ・野宮ルナ(波瑠)と、専業主婦の沢辻涼子(麻生久美子)が、名作文学を手がかりにさまざまな謎を解いていく本作。ミステリーであり、ロードムービーであり、文学案内でもある一方で、回を重ねるごとに見えてきたのは、登場人物たちが置き去りにしてきた過去と向き合う人間ドラマとしての側面だった。

 基本となる構成は、いたって明快だ。ルナと涼子が誰かの抱える謎や違和感に出会い、そこに名作文学の一節や作家の人生が重なっていく。江戸川乱歩、谷崎潤一郎、近松門左衛門、太宰治、坂口安吾、宮沢賢治、コナン・ドイル、夏目漱石。ルナは作品や作家ゆかりの場所に触れるたびに目を輝かせ、涼子はその知識量と行動力に振り回されていく。事件の真相を探っているはずが、最終的には登場人物が言えなかった本音や、見ないようにしてきた後悔へとたどり着いていく。そこに、文学ミステリーでありながら人間ドラマとしても楽しめる本作の魅力がある。

 文学ミステリーかと思いきや、見どころはトリックの鮮やかさだけではなく、むしろ本作が丁寧に描いてきたのは、文学の言葉を通して、人が自分の人生を少しだけ読み直していく過程だった。その出発点にいたのが、45歳の誕生日を迎えた涼子である。家族はいる。生活もある。それでも、夫・菊雄(田中直樹)とはすれ違い、子どもたちとの距離も埋まらない。壊れているわけではないが、自分の居場所が見えなくなっている。そんな涼子が思い出していたのが、学生時代の恋人・カズト(作間龍斗)だった。

 ルナに「会いたいですか?」と問われ、涼子が思わず「会いたい」と答えたことから、大阪への旅が始まる。手がかりは、「大阪在住」「親の事業を継承」「名字は佐藤」というあまりにも頼りない情報だけ。普通ならそこで終わってしまいそうな初恋探しを、ルナは古い電話帳や聞き込みを頼りにぐいぐい進めていく。道修町では谷崎潤一郎『春琴抄』に胸を躍らせ、通天閣の麓で起きた事件では、見えているものだけで人を判断できないという本作のテーマが浮かび上がった。

 大阪編の終着点で現れたのが、カズトにそっくりな青年・奏(作間龍斗/一人二役)だった。涼子は、カズトが自分を捨てて別の女性を選んだのだと思い込んでいた。しかし、奏の母・貴和子(鈴木砂羽)から明かされた真相は、まったく違うものだった。貴和子はカズトの恋人ではなく姉。火傷で入院したカズトには末期がんが見つかり、余命半年を宣告されていた。涼子を自分から離れさせるため、カズトは姉に恋人のふりを頼んでいたのである。

 ここで涼子の旅は、“昔の恋人に会いに行く話”から、過去の誤解を解いていく物語へと変わっていく。涼子は長い間、カズトに捨てられたと思い込んでいた。しかし実際には、カズトは病気のことを隠し、涼子を傷つけないために自分から離れようとしていた。あの日の別れの意味を知ったことで、涼子の中に残っていた怒りや後悔は、少しずつ違う感情へと変わっていく。

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