Netflixが実録ドラマを作り続ける理由 『地獄に堕ちるわよ』が示した“語り”の危うさ

Netflixが実録ドラマを作り続ける理由

 また、実話を元にした物語の最大の強みは、フィクションならリアリティがないと言われるような展開でも、現実に起こったことなら仕方がないと、視聴者を納得させることができることだ。「事実は小説より奇なり」ではないが、一人の作者が細部まで作り込んだ物語よりも、現実に起きた事件や実在した人物の評伝の方が説得力がある。だから実話を下敷きにしてフィクションを作ると高解像度の物語に仕上がる。

 だが、その反作用として、どこまで実話に忠実に作られているのか、という「現実との答え合わせ」に視聴者が夢中になってしまうという問題点がある。

 現在、『地獄に堕ちるわよ』の感想がSNSで多数呟かれているが、そのほとんどは、現実の細木数子の半生を正確に描けているかというジャッジや、演じる戸田恵梨香の現実の細木数子と比べて痩せすぎではないかというビジュアル面での評価がほとんどだ。こういった現象は朝ドラや大河ドラマでも見られるもので「現実との答え合わせ」に視聴者が夢中になり、ドラマ本編の評価が二の次になってしまうのだが、そもそもノンフィクションであっても、作り手が存在する限り、ある部分は描き、ある部分は描かない、もしくは別の描写に置き変えるといった編集は避けられない。そのため、問われるべきは(現実の)再現性ではなく、編集によって描かれる作り手の意図であるべきなのだが、『地獄に堕ちるわよ』が面白いのは、実録ドラマを紡ぐ作り手の葛藤自体がテーマとなっていることだ。

 物語は細木の幼少期から始まり、彼女があれよあれよと商売で成功し、次々と男と付き合っては騙されるという展開が続くため、毎話、少し違和感が残るのだが、次第にこれは、細木が魚澄に語った都合の良い物語だとわかってくる。

 そして島倉千代子(三浦透子)との出来事を聞いた後、魚澄が細木の関係者に取材をするようになると、細木の語った物語からは見えてこなかった視点が加わっていく。その結果、戦後の焼け野原からビジネスで這い上がってきた苦労人の細木の加害者としての顔が見えはじめ、魚澄は彼女の暗黒面を小説にどう書くべきなのかと迷い出す。

 現実の出来事を下敷きにした作品であっても、語り手の意思によって物語の解釈は無限に変化する。その危うさを、魚澄の視点で自己言及的に描いたことによって『地獄に堕ちるわよ』は、Netflixの実録ドラマを一歩前に進めたと言えよう。

■配信情報
Netflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』
Netflixにて世界独占配信中
出演:戸田恵梨香、伊藤沙莉、三浦透子、奥野瑛太、田村健太郎、中島歩、細川岳、細田善彦、周本絵梨香、金澤美穂、笠松将、永岡佑、中村優子、市川実和子、高橋和也、杉本哲太、余貴美子、石橋蓮司、富田靖子、生田斗真
監督:瀧本智行、大庭功睦
脚本:真中もなか
音楽:稲本響
撮影監督:河津太郎(JSC)
美術監督:原田満生
録音:高野泰雄
装飾:石上淳一
編集:髙橋信之、岡﨑正弥
スタイリスト:纐纈春樹
VFX スーパーバイザー:牧野由典
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子(Netflix)
プロデューサー:坂野達哉、深津智男
ラインプロデューサー:原田耕治
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
企画・製作:Netflix

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