戸田恵梨香の怪演で際立つ虚実の境界線 『地獄に堕ちるわよ』が傑作と言える3つの見どころ

『地獄に堕ちるわよ』3つの見どころ

 4月27日、伝説的な占い師・細木数子の半生を描いたNetflixオリジナルシリーズ『地獄に堕ちるわよ』の配信がついに始まった。細木を戸田恵梨香が演じるという第一報からネット上では驚きと好奇心が渦巻いていたが、予想を上回る完成度に、配信直後から視聴者や映画評論家の間で「ネトフリ最大級の傑作」との声が飛び交うなど、早くも大反響となっている。本作の面白さを決定づけている「3つの見どころ」から、その魅力を紐解いていきたい。

矛盾を利用し“虚実の境界線”をぼかす多角的な構成

 ドラマの面白さを決定づけている見所の一つが、細木数子という人物を多角的に検証している点だ。制作において参考文献として使われたのは、細木数子本人が著した『女の履歴書』(講談社)と、溝口敦が記した『細木数子 魔女の履歴書』(講談社)の2冊。これら二つの文献は内容が真っ向から対立しており、ドラマは意図してその矛盾を利用することで、「何が真実で何が創作か」という境界をぼかしてみせた。

 物語は細木の自伝本を出版する作家・魚澄美乃里(伊藤沙莉)を語り部として進行していくが、取材相手によって細木の人物像は真逆となる。美談やサクセスストーリーだけではない「裏側の真実」や「闇」を並列させることで、視聴者はその狭間で揺れ動き、彼女という人物の輪郭を捉え直さなければならない。

 この「曖昧さ」が、本作を伝記の枠に収まらない深みある作品へと昇華させているのだ。近年のNetflixドラマでは『全裸監督』や『極悪女王』といった実話ベースの作品がヒットしているが、あえて虚実を入り交える構成にした点は、本作の新たな挑戦と言える。

戸田恵梨香の“怪演”が放つ圧倒的なカリスマ性と狂気

 戸田の圧巻の演技力と、キャラクターの本質を独自の解釈で立体化させた手腕も見事だった。

 実際の彼女は細木とは似ても似つかないが、画面を通すと驚くほど本人の佇まいが乗り移って見えるのは、外見の模倣以上に、彼女が放つ独特の威圧感やカリスマ性を全身で体現してみせたからであろう。とりわけ、銀座で上り詰めていく若き日から占い師として天下を獲るまでの変遷を、繊細な声色の変化や所作によって演じ分けているのは、まさに“怪演”の一言に尽きる。物語が後半に進むにつれ、視聴者は彼女の言動に対し、共感ではなく生理的な嫌悪感さえ抱くようになるのではないか。

 作中では細木が「狂おしいまでの恋はすべて孤独から生まれるの」と自身の過去の恋愛をこぼす一方で、実弟からは「姉ちゃんは自分が食い物にされた経験から、人を食い物にするすべを身に着けたんだ」と断じられてしまう。ここに彼女の根底にある歪みが凝縮されており、暴走にも似たエネルギーの源泉が観る者に強烈な戦慄をもたらすのだ。

約70年を描き切るスケール感と絶妙な演出テンポ

 加えて、戦後から2000年代半ばまでの約70年が描かれた時代再現度は、潤沢な資金力があるNetflixだからこそできるスケール感だ。

 1970年代の銀座の風景は高度経済成長期の日本の活気を鮮明に描き出しており、右肩上がりの時代だからこそ生み出せた細木数子というモンスターの誕生に説得力を持たせている。また、“直接的なシーン”は最小限にとどめつつも、人間の内面に潜む狂気や暴力性、情欲を想起させる演出もお見事。全9話の中で、それぞれのキャラクターの過去と現在が交錯する編集のテンポも絶妙だ。

 戸田の鬼気迫る演技は、回を追うごとに凄みを増していく。そして迎えた最終回、彼女が言い放つ「あたしをおとしめるヤツは絶対に許さない、あたしを引きずり下ろそうとするヤツには絶対に負けない、それがあたしの生き方、それが細木数子よ」という“咆哮”は、地獄を渡り歩き、自ら運命を切り拓いてきた生き様そのものを象徴していたと言える。

 細木数子という人物を好きになる必要はないし、共感する必要もない。ただ、日本が歩んだ戦後史という大きな川の中で、ひとりの女性がいかにして頂点へ上り詰め、そして何を残したのか。その答えを、自身の目でぜひ確認してほしい。

■配信情報
Netflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』
Netflixにて世界独占配信中
出演:戸田恵梨香、伊藤沙莉、三浦透子、奥野瑛太、田村健太郎、中島歩、細川岳、細田善彦、周本絵梨香、金澤美穂、笠松将、永岡佑、中村優子、市川実和子、高橋和也、杉本哲太、余貴美子、石橋蓮司、富田靖子、生田斗真
監督:瀧本智行、大庭功睦
脚本:真中もなか
音楽:稲本響
撮影監督:河津太郎(JSC)
美術監督:原田満生
録音:高野泰雄
装飾:石上淳一
編集:髙橋信之、岡﨑正弥
スタイリスト:纐纈春樹
VFX スーパーバイザー:牧野由典
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子(Netflix)
プロデューサー:坂野達哉、深津智男
ラインプロデューサー:原田耕治
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
企画・製作:Netflix

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