『ばけばけ』全話が愛おしく思い出したくなる最終回 髙石あかりの名演をずっと忘れない

『ばけばけ』の半年は素晴らしい毎日だった

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』最終回。脚本のふじきみつ彦が企画書を作る中でまず最初に書いたというキャッチコピー、「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」の真意。撮影期間にして約1年の間、トキとして生きた髙石あかりの名演。そして、第1話冒頭から最終回となる第125話までを『思ひ出の記』で繋ぐ見事な構成。まさに「スバラシ」終わり方だった。

 イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)からヘブン(トミー・バストウ)との回顧録を書くように依頼されたトキ。ヘブンとの暮らしを振り返る中で出てくるのは、懺悔の言葉ばかりだ。やがて、自分がヘブンを縛りつけていたのだと、トキは自身を追い込んでいってしまう。

 トキが回想するのは、ヘブンが帝大に初めて向かう日のこと。着物に袴姿を好んだヘブンを、生徒たちが期待しているだろうと西洋の格好に変えたのはトキだった。フロックコートを“野蛮コート”だとして嫌っていたヘブンだったが、やがて愛想を尽かしたのかフロックコートを嫌がらずに着るようになったと、トキは話す。

 だが、その聞き手である丈(杉田雷麟)は、その話に思わず吹き出してしまう。トキは、フロックコートを「フロッグコート」と発音。ヘブンはフロッグ=カエルコートと話すトキを愛おしく思い、微笑んでいたのだ。

 見方や発想を変えるだけで、この世界はすばらしいものになっていく。例えば、トキとヘブンを繋いだ怪談もそうだ。一般的に怪談は怖い話だと思われているが、トキはそれを「悲しい物語」と捉えた。大切で悲しい記憶が深く刻まれているヘブンだからこそ、悲しみに寄り添うトキの考え、話す言葉に彼は惹かれていったのだ。

 第1話で武士として新たな時代を前に立ち尽くしていた司之介(岡部たかし)も、不安の中で日本にやって来たヘブンもまた、錦織(吉沢亮)らとの出会いを経て、うらめしかったことがすばらしいものへとばけていった。

 「こげな話がええんだない」とフミ(池脇千鶴)は言う。「ほんにたあいもないスバラシな毎日だっただない」と。その言葉通り、ヘブンが残した絵やメモ用紙が、トキや家族との思い出の日々を雄弁に語っていた。

 主題歌「笑ったり転んだり」で歌われているように、〈毎日難儀なことばかり〉と目をそむけたくなるようなことが日々起きる中で、何気ない日常を愛おしく思うこと、そして慈しむこと。それこそが忘れがちなことであり、難儀なことでもある。常に大切に描かれていた笑いや会話劇を通じ、『ばけばけ』は日常を穏やかに暮らしていくことの尊さを伝えていた。

 ヘブンとの思い出の日々を前に、泣き崩れる髙石あかりの芝居も素晴らしかった。とめどなく流れ溢れ出す涙。「泣き笑い」と表現するのは安易に聞こえてしまうかもしれないが、この『ばけばけ』という作品そのものを、髙石が体現していたように思える。はっきり言ってしまえば、見てくれを忘れ、リミッターを完全に解放した演技。まさに1年間、ここまで深く役に入り、走り切ってきたからこそできる感情表現のように思う。

 3月23日に放送されたラジオ番組『ウチらと世界とエンタメと 髙石あかり × ふじきみつ彦』(NHKラジオ第1)の中で、岡部たかしが「あかりちゃんすごかったで」「あんなんやられたらほんまに……」と絶賛していたとふじきが明かしていたのは、きっとこの一連のシーンだろう。

 その一連の中で、蚊に生まれ変わったヘブンがトキに会いに来るシーンは、第118話で「生まれ変わったら蚊になりたい」と話していたエピソードを見事に生かしている。同時に、ヘブンを演じるトミー・バストウが、モデルとなった小泉八雲の墓参りをした際に蚊に刺されたという、有名な舞台裏の出来事をも思い起こさせる粋な演出だ。

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