『風、薫る』見習い生と看病婦の深い溝 シソンヌじろうが見せた“コント師の凄み”

『風、薫る』シソンヌじろうのコント師の凄み

 りん(見上愛)の功績により、病院内での看護への理解が着実に深まる一方で、看護婦見習い生と看病婦の溝は深まるばかり。そんな中、NHK連続テレビ小説『風、薫る』第43話では、ベテラン看病婦・フユ(猫背椿)の家庭事情が明らかになった。

 手術介助を教えてほしいというりんの申し出に、金銭を要求したフユ。他の見習い生たちが彼女を”卑しい”と批判する中、「卑しいんじゃなくて、本当にお金がなくて、切羽詰まってるとは考えないの?」と反論したのは直美(上坂樹里)だった。直美は幼い頃から苦労してきたため、看病婦の立場になって物事を考えることができるのだろう。実際、フユにはお金が必要な理由があった。

 再び患者の手術に立ち会うことになり、改めてフユに教えを乞うりん。直美も「お互い力を合わせれば、仕事も早く終わるし、お子さんのためにも」と助太刀に入るが、フユは「息子は家で待ってなんかないの」と突っぱねる。なんでも、フユの夫は足を悪くして以来、働けていないとのこと。ゆえに家は貧しく、すでに息子は奉公へ出し、フユが夫の代わりに看病婦として働いているそうだ。「他人の看病するくらいなら、家で亭主見てたいわよ」というフユの絞り出すような言葉には、切実な思いが感じられた。

 そんなフユに、「ご主人を看病します」と申し出たりんと直美。その言葉通り、2人はフユの夫・康介(じろう)を訪ねた。痺れている足の部位を伝えただけで、「腰骨を損傷したんですね」と言い当てたりんに感心した様子を見せる康介。一方で、自分の足はもう治らないと諦め切っており、2人の看病を素直に受け入れようとはしなかった。

 康介を演じるのは、独創性あふれるネタで“稀代のコント師”としてお笑いファンから熱い支持を集めているお笑いコンビ、シソンヌのじろう。また相方の長谷川忍とコンビともに演技力が高く、俳優としても存在感を示しており、じろうに至っては今回で3度目の朝ドラ出演となる。その魅力は何といっても、落ち着いた声のトーンと滑らかな滑舌。康介の部屋にはたくさんの本が積まれていたが、少し話しただけで、もともとはインテリで良いところに勤めていたのではないかと想像できた。しかし、今は何もできない歯痒さから、卑屈になってしまっているのだろう。

 りんと直美が気になったのは、そんな康介の「看病婦なんか」というフユの仕事を下げるような言葉だ。当時、看病婦は「金目当ての卑しい仕事」として偏見の目に晒されていたことを考えると、その言い方も仕方がないことなのかもしれない。康介も決してフユを見下しているわけではなく、むしろ自分のせいで申し訳ないという気持ちから出てくる言葉なのだろう。しかし、それこそがフユを最も苦しめている最大の要因ではないだろうか。

 軽症の患者から重病の患者まで、たくさんの病人や怪我人と日々向き合う看病婦の仕事は立派だ。それに、フユには10年もの実務経験で培った確かな技術がある。患者のことはぞんざいに扱っているようで、彼女は丸山(若林時英)が、病院食が薄く塩を欲しがっていることを覚えていた。本当は患者一人ひとりをしっかり観察しているのだろう。

 それなのにフユが自分の仕事を誇りに思えないのは、世間から常に見下されているからだ。加えて、本来なら一番理解してほしいはずの夫からも「可哀想だ」という目を向けられている。そんな中で、いきなり現れた看護婦見習い生に立場を奪われそうになったら、余計にプライドが傷ついて、意固地になるのも無理はない。

 看護の知識はあるが、まだ技術が追いつかない見習い生と、看護については一切学んでないが、実務経験で培った技術を持つ看病婦たち。どうすれば、お互いに打ち解け、足りないところを補い合える関係性になれるのだろうか。

 また第43話では、りんと直美以外の見習い生にもフォーカスが当たった。看病婦のツヤ(東野絢香)から、患者の子どもを預かるのをやめてほしいと釘を刺された喜代(菊池亜希子)。すると、彼女は子どもができなかったことを理由に夫から離縁されたことを打ち明ける。そのため、最初は他人の赤ん坊を見るのもつらかったが、この仕事を始めてから少しずつ子どもと接するのが楽しくなってきたという。ツヤが子どもを毛嫌いするのにも、何か深いわけがあるのかもしれない。

 一方、ゆき(中井友望)とトメ(原嶋凛)は担当する患者・小野田(宮地雅子)の「あなたたちが娘みたいに優しくしてくれるから胸がいっぱい」という言葉に胸を打たれる。特にゆきは立場を超えて、小野田にかなり肩入れしているようだ。そうした患者や看病婦との関わり合いから、一人ひとりのバックグラウンドも少しずつ明らかになっていくのだろう。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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