『ばけばけ』髙石あかりの好演が作品を底上げする トキが照らした“周囲の人々”のドラマ

『ばけばけ』髙石あかりの好演が作品を底上げ

 とはいえもちろん、ヒロインの朗らかさばかりがファンの心を掴み続けてきたわけではない。貧しい家庭で育ったトキの生い立ちは、とても複雑なものだった。それを私たちが知るとき、当然ながら彼女の朗らかさは変化している。表情はかげり、発する声の明るさも薄れている。といっても、トキが本来持っている性質が完全に消失するわけではない。このあたりの表現に、俳優・髙石あかりの真価が表れていた。

 トキはいつだって、自分のことは二の次。身の回りの大切な人々のことを第一に考える人間だ。両親のため、友人のため、そして夫であるヘブン/八雲のため、ときに彼女は無理をする。苦しくても、悲しくても、どうにかそれを押し隠そうとする。そうしたとき、あの笑顔は少しだけ歪み、声は微かに震える。こういう経験をしたことのある方は、たくさんいるはず。無理をして明るく振る舞おうとすると、他者とコミュニケーションを取るために必要なところに、少なからず異常があらわれるものだ。そしてこのときの主人公の心理状態こそが、ドラマを生む。だから「朝ドラ」でも同じような振る舞いを多くの主演俳優たちが求められてきた。今回の“トキ=髙石あかり”にはこれが顕著だったのではないだろうか。

 「朝ドラ」は幅広い視聴者層を持つものとあって、一般的なドラマや映画と比べて、俳優たちは“分かりやすい(=的確に視聴者に届く)演技”を展開しているように思う。だから感情表現も多少オーバー気味になることも。けれども髙石は、“喜怒哀楽”のうち“喜”と“楽”を極端に表現することはあっても、“怒”と“哀”を極端に示すことはしてこなかった。胸の底のほうにはネガティブな感情がいっぱいでも、どうにかそれを隠そうとする。努めて笑おうとする。それがトキというキャラクターだ。髙石はこの複雑な感情と身体の状態を、絶えず細やかに演じ続けてきた。そしてそこには、“分かりやすい演技”はなかった。これはこの『ばけばけ』だからこそ成立したものかもしれない。

 もちろん、“トキ=髙石あかり”の素晴らしさは、こういった感情表現だけではない。物語はつねに、シリアスな展開とコミカルな展開を繰り返してきた。このどちらのシーンにも適応し、ときに自ら先頭に立って創出してきたのが髙石だ。柔軟性に富み、それでいて高度なテクニックを持った演技者でもあると思う。上述した感情表現の繊細さに関してもそうだが、髙石は演技の振れ幅が大きいというよりも、引き出しが圧倒的に多いのだろう。それはこれまでの彼女の出演作にいくつか触れれば分かることと思う。『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ(2021年〜2024年)や、配信ドラマ『グラスハート』(2025年/Netflix)、映画『夏の砂の上』(2025年)など、彼女が担っている役どころはまるで違うのだ。

 さて、“トキ=髙石あかり”にもう会えなくなると思うと寂しいものだ。彼女が周囲の人々に明るさをもたらしてきたのは、すでに述べたとおり。彼女の言動の一つひとつが、みんなを輝かせてきた。登場人物の一人ひとりに、ドラマがある。これは本作の脚本の構造や演出に拠るところも大きいはずだが、やはり髙石がトキを演じたからこそ実現したものだと思う。トキの“周囲の人々”には、私たちも含まれている。ここで得たものを胸に、歩き出そう。またいつか会えるはずだから。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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