ティモシー・シャラメに意趣返し? PTAは悲願の受賞 第98回アカデミー賞ハイライト解説

快挙といえば、エイミー・マディガンの助演女優賞受賞だろう。75歳の彼女のこれまでのキャリアを踏まえた上での功労賞的な側面もありつつ、それでもホラー映画における演技がオスカー像へと繋がることを証明してみせた。筆者はずっと『ヘレディタリー︎/継承』のトニ・コレットがノミネートされなかったことを残念に思っているのだが、今後ジャンル映画だからと蔑ろにされず、ホラー映画での俳優の演技がしっかりアワードで評価される時代になっていくことを期待したい。

また、『ハムネット』で主演女優賞を受賞したジェシー・バックリーのスピーチがイギリスの「母の日」と重なる奇跡もあって、とてもよかった。
余談にはなるが、受賞を逃したものの「愛されているな」と感じたもう1人の人物がいる。ジェイコブ・エロルディだ。『嵐が丘』で現在世界的に“激モテ”中の彼だが、彼の出演作『フランケンシュタイン』が衣装デザイン賞とメイクアップ・ヘアスタイリング賞を受賞した際、受賞者のどちらもがエロルディに駆け寄るなどアプローチ。他の受賞者に対しても朗らかな笑顔を見せていて、その感じの良さがカメラに引き抜かれている場面がしばしばあった。
一方で……という言い方もなんだが、“集中砲火”をくらったのがティモシー・シャラメである。
ティモシー・シャラメが浴びた、手痛い意趣返し
会場が愛と祝福の熱気で満たされる一方で、冷酷なまでに明暗が分かれたのが、主演男優賞の最有力候補の一角とされながらも無冠に終わったシャラメだった。そもそも、受賞結果以前に今回の授賞式では事前の炎上を巡って、かなり手痛く多くの人からバッシングやいじりの対象となっていたように感じる。
事の発端は、シャラメが主演を務めた卓球がテーマの映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のプロモーション期間中に遡る。実は同作のプロモーションには、アメリカを代表する世界的バレエダンサーであるミスティ・コープランドも異分野からの強力なサポーターとして携わっていた。しかしあろうことか、シャラメはその宣伝インタビューの中で「バレエやオペラはもう誰も気にしていない」という主旨の発言を放ってしまったのだ。もちろん、これにコープランドは「自分をなぜプロモーションに招待したのか不思議である」「表現媒体にはそれぞれ存在意義があり、比較すべきではない」など対立的な意見を公の場で語っている。
そして迎えたオスカー本番。授賞式の司会者・オブライエンが、この騒動を見過ごすはずがなかった。先陣を切った彼は冒頭のモノローグで「今夜の警備は非常に厳重です。なぜなら、オペラ界とバレエ界の両方から襲撃される恐れがあると聞いているからです」と痛烈なジョークを飛ばし、会場を爆笑の渦に巻き込んだ。さらに「彼らは、君が『ジャズ』を仲間外れにしたことにも怒っているんだ」と畳み掛け、カメラは『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の劇中にある「白服のミュージシャンが彫刻のお尻を卓球のラケットで叩いてビートを刻む」というシュールなシーンを映し出した。
強烈ないじりの標的となったシャラメだったが、彼は隣に座る恋人カイリー・ジェンナーの傍らで不満げな表情を一切見せず、楽しそうに笑って大きく頷いてみせていた。
しかし、「意趣返し」は司会者のジョークだけでは終わらなかった。なんと『罪人たち』のパフォーマンスで、SNSでシャラメを直接批判した張本人であるコープランド本人がステージに登場し、圧巻のバレエ・パフォーマンスを披露したのである。シャラメの目の前でバレエの圧倒的な美しさと凄みを見せつけるという、これ以上ないほどの意趣返しに、SNSは「今年のオスカーはドラマがありすぎる」と沸き立った。なお、彼女のパフォーマンスは事前に決まっていたものである。
さらに事態は受賞者のスピーチにも波及。短編実写映画賞でまさかの同位(タイ)で受賞を果たした『Two People Exchanging Saliva(原題)』のアレクサンドル・シン監督は、スピーチの終盤で「私たちは芸術を通して、創造性を通して、演劇やバレエを通して社会を変えることができるのです」と力強く語った。このシャラメに向けたであろう明確な言葉のチョイスに、客席からは歓声とともに一部でブーイングのようなざわめきが入り混じり、式典には極めて珍しい緊迫した空気が流れた。
今回の授賞式の空気を見るに、相当の人が彼の発言に対して思うことがあるのだろう。個人的には授賞式の前のレッドカーペットでシャラメがスティーヴン・スピルバーグと人一人分の距離にいたとき、慌ててシャラメのパブリシストが彼を方向転換させた場面など、なかなかスリリングに感じた。もちろん、それでも彼は『Dune: Part Three(原題)』の公開を控える人気俳優であるが、ネット上では「明日にでもPRチームと何か対策すべき」と彼を心配する声や「でも彼は多分変わらないよ」という声などが上がっている。
受賞結果は喜ばしいものとして受け止めつつ、今後のシャラメに対する映画界の動向が気になってしまうような第98回アカデミー賞だったかもしれない。
参照
https://variety.com/2026/film/global/misty-copeland-timothee-chalamet-actor-ballet-opera-1236684380/





















