マイケル・B・ジョーダンはまさしく千両役者 『罪人たち』は後世に残る伝説の作品に

そのうえでクーグラー監督は、単純な図式化を徹底的に避ける。序盤に登場する白人代表のような地元の不動産業者は、どこからどう見ても小狡い悪人(失礼)だが、スタックと再会する元恋人メアリー(ヘイリー・スタインフェルド)はその定型に当てはまらない。エキゾチックな美貌を湛える彼女は黒人の血を引いており、白人社会に属しながらスタックへの情熱的な恋心に燃え、定型や偏見に颯爽と背を向けるヒロインである(だからこそ、ヴァンパイアの格好の標的となってしまう)。
もうひとりのヒロイン、スモークの妻アニー(ウンミ・モサク)のキャラクターも、ありがちなヒロイン像とはかけ離れている。彼女は“フードゥー”という黒人奴隷社会の民間信仰/民族宗教(南アフリカの信仰とカトリックが融合した“ブードゥー”とは違うので要注意)のヒーラーであり、その知識と経験でヴァンパイアたちの甘い誘惑や、執拗な攻撃に立ち向かう。また、『バビロン』(2022年)で鮮烈なインパクトを残した中国・上海出身の女優リー・ジュン・リーも、町の雑貨店を切り盛りする経営者役を好演。マイノリティが支え合った南部の歴史を体現するような役柄で、彼女もまた男勝りの激情を爆発させる。そんな女性たちのアンサンブルも『罪人たち』の見どころのひとつだ。
見事に集客ビジネスを成功させたスモーク&スタック兄弟と仲間たちだったが、皮肉にもその盛況ぶりが呼び水となり、白人至上主義者とは別種の悪魔=ヴァンパイアを引き寄せてしまう。一方的な排除ではなく、魂や尊厳を奪ったうえでの「吸収・同化」という彼らの攻撃は、より屈辱的で悪魔的だ。これは1930年代のミシシッピ州と、現代アメリカの悪夢とを直結させる「侵略と支配」の構図でもあるだろう(今まさに日本で起きていることでもある)。

だが、先述のジャック・オコンネルの歌唱シーンで描かれるとおり、ヴァンパイアたちもまた欧州から流れ着いた「異邦人」なのだ。この国に生きるほとんどの人間が流れ者か、もしくはそのルーツを持っている……本作はそんな事実も鮮やかに、禍々しく伝える。唯一、劇中1シーンだけ登場するネイティヴ・アメリカンの追跡者たちは例外と言えるが、彼らには白人のような独占欲や支配欲はない。だから早々に追跡の手も緩めてしまい、やがて少数民族として追い込まれていく未来をも想像させる。本作の作り手が畏敬と共感をもって彼らを描くのは当然だろう。
このように、シンプルなストーリーラインに社会的テーマを幾重にも仕掛けた脚本も見事だが、後半のジャンルムービーとしての覚醒ぶりにも目を見張る。「吸血鬼は招かれない限りテリトリーに侵入できない」というセオリーを十二分に活かしつつ、ジョン・カーペンター監督の『ザ・フォッグ』(1980年)や『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1998年)などを連想させる籠城ホラー&バトルアクションをダイナミックに展開させる。この転調を劇的に盛り上げるのが、ルドウィグ・ゴランソンによる音楽だ。初長編『フルートベール駅で』(2013年)からのクーグラー組の常連スタッフで、今回は製作総指揮にも名を連ね、これまで以上に冒険的な音楽手法に挑んでいる。
最大の功労者は、やはり主役を演じたマイケル・B・ジョーダンだろう。『フルートベール駅で』をはじめ、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)、『ブラックパンサー』(2018年)といった作品でクーグラー監督とともにステップアップしてきた彼は、今回も「過去最高にやりがいのある難役」を演じきってみせた(しかも1人2役で)。ホラー映画の被害者とヴィランを同時に演じつつ、ヴァンパイア相手にヒロイックな死闘を繰り広げ、ギャング映画としての見せ場も引き受けながら、観客の想像を絶するエピローグでも茶目っ気溢れるサプライズをかます、まさしく千両役者! 熱烈なアニメオタクだという彼のセンスや遊び心も、本作の輝きに一役買っている気がしてならない。
もちろん、この監督・主演コンビが優れたフィルムメーカーであることは以前から明らかだったが、それをホラーというジャンルで実現してくれたことが嬉しい。アカデミー賞での健闘も祈りたいが、たとえ受賞は逃しても『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)ばりの伝説はきっと後世にも残るだろう。
■公開情報
『罪人たち』
全国7劇場にて上映中
監督・脚本・製作:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、マイルズ・ケイトン、ジャック・オコンネル、ウンミ・モサク、ジェイミー・ローソン、オマー・ベンソン・ミラー、デルロイ・リンドー
配給:東和ピクチャーズ・東宝
137分/原題:Sinners/映倫:PG12
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