『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『エディントンへようこそ』の共通点とは?

PTAとアリ・アスターの共通点

 ポール・トーマス・アンダーソン(1970年生)と、アリ・アスター(1986年生)。年齢も作風もだいぶ遠く隔たったふたりだが、間違いなく現代アメリカを代表する映画作家たちといえる。そんなふたりが、同時期に、ともに「目を見張るアクション活劇」「しかもゴリゴリの社会派闘争劇」を世に放ち、強烈無比なインパクトを刻むとは一体誰に予想できただろうか?

 ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)が製作・監督・脚本を手がけた『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025年)は、彼が初めて正面きって挑んだ高純度のアクションドラマ。主人公はかつて反体制運動の闘士だったシングルファーザーのボブ(レオナルド・ディカプリオ)。ある日、彼は思いがけず宿敵のベテラン軍人ロックジョー(ショーン・ペン)に発見され、必死の逃走≒闘争に身を投じる。ふたりの間には、かつてボブの革命仲間で家庭を捨てて消えた妻(テヤナ・テイラー)をめぐる因縁があった。ロックジョーは彼らの一人娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)も執拗に追跡。「なぜいまさら?」と自問する暇もなく、ボブは娘が通う空手道場のセンセイ(ベニチオ・デル・トロ)の助けを借りながら、愛する娘と落ち合うべく荒野を疾走する……というシンプル極まるストーリーが展開する。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 すでに劇場で観た読者も少なくないと思うが、これまでPTA作品に親しんできた洋画ファンもそうでない観客も、がっしり抱き寄せて虜にするような強烈な磁力を放つ傑作である。レオナルド・ディカプリオVSショーン・ペンという、ほとんど怪獣バトルの趣さえある主演スター同士の対決にまずは目が釘付けだ。革命戦士の面影はどこへやら、ヨレヨレの隠遁中年ルックでひたすら無様に逃げ続けるディカプリオが、それでも懸命に娘の行方を追う健気な姿には笑いと涙を禁じ得ない。そして、ショーン・ペン自身がおそらく最も憎悪するタイプであろう変態愛国軍人を粘着質に怪演するさまも、憎たらしさと爆笑を誘う。オヤジどものバトルに巻き込まれる娘役、チェイス・インフィニティの清新な魅力からも目が離せない。俳優のポテンシャルを引き出すことにかけては右に出る者のいないPTAの演出力を改めて思い知らされる。

 PTAといえば出世作『ブギーナイツ』(1997年)から前作『リコリス・ピザ』(2021年)まで「長尺癖」が一向に治らない監督でもある。ゆえに今回の162分という上映時間もさして気にならなかったが、それにしてもここまで「息もつかせぬ直線的アクション」をパワフルに見せてくれるとは思わなかった。それでいて単純明快なジャンルムービーに終わらず、偏向まみれのトランプ大統領政権に物申す政治性もしっかり帯びており、PTA作品らしい思慮深さと批評精神、そして過去最高レベルの反権力スピリットに満ちている。そこがなんとも痛快だ。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 留意すべきは、後半の舞台となる“聖域都市”バクタン・クロスの設定。実際に米国内の一部には、不法移民の人権保護などの観点から外国人の在留資格の有無を追及せず、司法による強制送還措置の行使にも協力しない地域があるという。しかし、第1次・第2次トランプ政権では聖域都市への補助金停止、不法移民の摘発強化などが激化。劇中でショーン・ペン=ロックジョー率いる軍隊がバクタン・クロスに乗り込み、傍若無人に制圧作戦を展開するくだりは、まさに現実社会の劇的反映だ。

 だからこそ、ディカプリオのひたむきな逃走劇は胸を打つ。保守層から見れば反米思想とジャッジされるかもしれないが、実のところ、PTAがこんなにも素直に「アメリカへの愛」を謳った作品もなかったのではないか。そこには抑圧に抗い、権力と戦い、家族を守るという「市民としての自由」も含まれる。でも、PTAならどっちの結末にも転びかねないよな……と観客の悪い予感をめいっぱい働かせるクライマックスのサスペンス醸成もあっぱれ。結果、泣かせるところがまたニクい。

 そんなPTA『ワン・バトル・アフター・アナザー』の多幸感とは一見正反対の毒気と辛辣さに溢れながら、米国社会の対立構図をアクションたっぷりに描いたのが、アリ・アスター監督の『エディントンへようこそ』(2025年)だ。主演のホアキン・フェニックスは、同監督の『ボーはおそれている』(2024年)に続く登板。そういえばPTAの『ザ・マスター』(2012年)『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)にも主演しているが、もちろんそれだけが共通点ではない。

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