『ばけばけ』は喜びより“心の痛み”に焦点を当てる 「建前」がキーワードの松江編を総括

『ばけばけ』松江編を総括

 私たちの日常はたくさんの関係性から成り立っている。家族、友人。人に限らず、仕事、推しなど、人はたくさんの「好き」を抱えて生きているから、何かを得るためとはいえ、手放すにはそれ相応の痛みを伴う。「なして……私の全てを奪おうとするんですか?」と思わず取り乱したトキが第94話で言ったように。

 トキは、愛する人・ヘブンだけがいればいいのではない。大好きな松江の町。祖父・勘右衛門に、雨清水家のタエ(北川景子)と三之丞(板垣李光人)。そして親友のサワ(円井わん)。トキは、サワと一緒に過ごす日々を手放さなければならなくなったから、別れの日、自分がこの先ずっと見続けることが叶わない、それぞれの未来に向けて泣きながらエールを送り合う。このように『ばけばけ』は、何かを得る喜びより、選ばなかった方、選ばれなかった方に生じる心の痛みに焦点を当てる。

 第90話で再び「人柱」の話が登場したのは意味があってのことではないか。金縛りで眠れなくなったトキは、ヘブンと共にフミ(池脇千鶴)に怪談を読んでほしいと頼む。そこで語られたのは、「築城の成功を願い、城下の盆踊り大会で一番の踊り手である若い娘が人柱に選ばれ、生きたまま城壁の下に埋められてしまった」という松江城に伝わる悲しい話だった。それを、涙を流し微笑みを浮かべながら聞いているトキの表情と、フミの「なんと残酷な、松江の町」という言葉が、第18週の副題「マツエ、スバラシ。」と繋がって、一つの町の二面性を浮き彫りにする。

 当初「人柱」は、松江大橋に伝わる「源助柱」に、「家のため」に働き、あるいは婿を取ろうとする自分たちを重ねたサワとトキの明るい自虐を思い起こさせるものだった。そこに第94話の、タエの「いいんですよ、自分のために正直に生きて」という言葉が繋がるのだとしたら、熊本行きは、トキにとって大きな一歩なのかもしれない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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