ケイト・ブランシェットら登壇 ロッテルダム国際映画祭で難民映画基金支援の短編初披露

1月30日、オランダ・ロッテルダムで開催中の第55回ロッテルダム国際映画祭(IFFR)にて、難民映画基金(Displacement Film Fund)の支援を受けた短編5作品がワールドプレミア上映された。上映に先立ち行われた会見では、基金設立の経緯や本プロジェクトに込められた思いが、関係者の言葉で語られた。

本基金は、避難(=ディスプレイスメント)を余儀なくされた映画制作者、または避難民としての経験を描いた実績のある映画制作者を支援する目的で2025年に設立されたもの。IFFRが運営するヒューバート・バルス基金を運営パートナーに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を戦略パートナーとして始動し、短編映画への助成制度のパイロット版として展開されている。創設パートナーにはマスターマインド、ユニクロ、ドローム・エン・ダード、タマーファミリー財団、アマホロ・コアリションが名を連ねており、今回選出された5人の映画監督には、それぞれ10万ユーロ、総額50万ユーロの制作費が提供された。

上映されたのは、モハンマド・ラスロフ(イラン出身)、マリナ・エル・ゴルバチ(ウクライナ出身)、モ・ハラウェ(ソマリア出身)、ハサン・カッタン(シリア出身)、シャフルバヌ・サダト(アフガニスタン出身)による短編作品。会見には、IFFRマネージング・ディレクターのクレア・スチュワートと、UNHCR親善大使であり本基金の立ち上げに深く関わったケイト・ブランシェット、そして創設パートナーの一人でもあるHBFのタマラ・タティシヴィリが登壇した。

まず壇上に立ったスチュワートは、短編映画に焦点を当てた理由についても言及。「これらの物語を世に出すには、時間をかけすぎる余裕がなかった。だからこそ、各作品に10万ユーロを全額提供し、映画作家が資金集めや長い開発期間に縛られず制作に集中できる形を選びました。結果として、とても適切なプロセスを踏めたと思っています」と強調した。

続いてマイクを取ったブランシェットは、ロッテルダムという場所で作品が披露される意味を語った。「ここロッテルダムほど、これらの作品をプレミア上映するのにふさわしい場所はありません。この場には特別なシナジーが生まれていると感じます。ここFENIXの会場にいられること、そしてこの卓越した映画作家たちと同じ空間を共有できることは、本当に大きな特権です」と述べ、「彼らの映画は一本一本が素晴らしいですが、並んだときにさらに大きな意味を持ちます。それぞれの映画は個人的なものでもありますが、並べて観ることで、多様な視点が立ち上がってくる。真実とは、複数の視点の集合体です。これらの作品上映は、そのことにとても開かれていると感じました」と賛辞を寄せた。

ブランシェットはまた、ディスプレイスメントをめぐる物語がなぜ必要なのかについて、自身のUNHCRでの経験を踏まえて語る。「10年間、親善大使として活動する中で、私たちは誤解や偏見と向き合ってきました。同時に、観客についても考えるようになったのです。物語を語ることは、他者の経験、そして自分自身の人間性と再びつながる行為です。それほど豊かで勇気ある物語が、なぜメインストリームに存在しないのか。その疑問から、この基金は生まれました」。さらにブランシェットは、本プロジェクトが想像以上のスピードで実現したことへの驚きも口にした。「ディスプレイスされた人々は、絶望している暇がありません。そして私たちも同じです。この緊急性に、パートナーや映画作家たちが敏感に応えてくれました。アイデアが動き出してから18か月足らずで、ここまで来られたことは大きな希望です。いま必要なのは、これらの物語を観客に届ける勇気ある配給者です。観客は、こうした作品を求めているのですから」。
『水の感触』モハンマド・ラスロフ

イラン出身のラスロフ監督による短編『水の感触』(原題:『Sense of Water』)は、亡命という現実のなかで、異国の言語と向き合うことになったイラン人作家を描く作品だ。ラスロフは、代表作『聖なるイチジクの種』で第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の審査員特別賞を受賞するも、イラン政府批判を理由に禁錮8年と鞭打ち刑を宣告され、命懸けで国外へ脱出。本作は、そうした極限の状況を経て完成したという。
いまこの映画が自身にとって何を意味するのかを問われると、ラスロフはまず、「イスラム共和国が犯した大量殺戮に対し、イランの人々にお悔やみを申し上げ、深い悲しみを共有したい」と述べたうえで、制作の動機に触れた。「イランを離れ、ヨーロッパで暮らすようになってから、私にとって未知の問いが生まれました。よく知らない文化のなかで、亡命者として映画を作るとはどういうことなのか。過去や文化、そして“いま”の断片をどう接続し、どこで観られても意味を持つ物語にできるのか。その好奇心が出発点でした」。
さらにラスロフは、本作の核に「言葉の感情的価値」があると語る。「ある言葉を理解することと、それを感じることのあいだには距離があります。そのギャップこそが、この映画の根っこです。私は、同じ条件で生きる世界中の人々とこの感覚を共有したかった。言語の壁を越え、意味を理解するところから、感情を体験するところへ移行できることを示したかったのです。しかし同時に、意味や感情を超えた場所にあるものも確かに存在すると感じていました」と思いを寄せた。
『ローテーション』マリナ・エル・ゴルバチ

ウクライナ出身のゴルバチ監督による『ローテーション』(原題:『Rotation』)は、市民生活から兵役へと日常を切り替えざるを得なくなった若いウクライナ女性の姿を描いたもの。撮影のために一度ウクライナへ戻ったゴルバチは、自身にとっても重要な新しい視点を見出したという。
作品のコンセプトについて、ゴルバチは「私が描きたかったのは、ウクライナで私たちが経験してきた“普通のディスプレイスメント”です」と語る。「それは特別な出来事ではなく、きっとどの国でも起きています。ニュースを追い、自分が孤立した国ではなく世界の一部として生きていると理解している人々なら、私たちの故郷で何が起きているかを感じているはずです」。難民を直接描く物語ではなく、「普通が奪われ、ずらされていく新しい現実」を映すことを目指したと明かした。
制作過程では、安全面の問題から夜間撮影が不可能になるなど、多くの制約があったという。「クルーの安全を保証できない状況では撮れない。だから私は、もともとの市民生活から軍務へと切り替えざるを得なかった人々の物語を追いました。彼らは望んで新しい職業を選んだわけではなく、戦争によってそうせざるを得なかった。運命のなかでディスプレイスされ、感情の流れを変え、新しい現実に適応することを強いられた人々です」。完成後、「自分はこれについての最初の映画を作ったのだと理解しました。それは私にとって、とても大きなことでした」と振り返った。























