『ばけばけ』髙石あかりの“語り”に惹き込まれる 怪談を通じて深まるトキとヘブンの距離

『ばけばけ』怪談を通じて深まる2人の距離

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第59話では、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の怪談の夜が続いていく。言葉も文化も違う2人が、物語を通じて少しずつ心を近づけていく様子が、静かで温かい余韻とともに描かれた回だった。

 前回、トキが語ったのは『鳥取の布団』という怪談だった。金縛りに悩まされ続けていたヘブンだが、不思議なことにその夜を境に症状はぴたりと収まっている。日本語の意味はまだ完全にはわからない。けれど、言葉の調子や間合い、トキの声の揺らぎに惹かれてしまったヘブンは、もう一度『鳥取ノフトン』を聞きたいとねだる。日本語の勉強にもなるから、と照れ隠しのように理由をつけながら、もっと話してほしい、もっと聞いていたいという本音が溢れていた。けれど、トキもまた、話し足りない。聞き手が真剣に耳を傾けてくれる心地よさを知ってしまったからだ。気づけば2人は、学校を休んででも怪談を続けたいと笑い合うほど打ち解けていた。

 中学校では、ヘブンがいつになくご機嫌だ。その変化をいち早く察した錦織(吉沢亮)は、同僚の正木(日高由起刀)からヘブンが怪談に夢中になっていると聞かされる。ヘブンの日本語上達のためにも悪い話ではない。だが、その怪談を語る相手がトキだと気づいた瞬間、錦織の胸中には別の思いが芽生える。ヘブンが怪談にのめり込めばのめり込むほど、日本語も上達し、帰国の日が早くやってくるかもしれない。そう気づいたとき、錦織は少しの寂しさを覚えていた。

 やがてふたたび夜が訪れ、部屋には行燈の明かりだけが灯る。異様な静けさが満ちる中、トキの新たな怪談が始まる。彼女が次に語ったのは、『子捨ての話』という出雲国を舞台にした物語だ。貧しさやどうしようもない事情から、子どもを手放すしかなかった親と、その事実を知ってしまった子どもの痛み。その残酷さとやりきれなさを、トキは淡々とした口調の中にそっと忍ばせて紡いでいく。

 「チチ、ワタシ、ステタ。ハハノコト、ステタ。ユルセナイ」と怪談の中の子の思いをなぞるように、ヘブンがたどたどしい日本語で言葉を重ねる。その表情には、単なる怪談を楽しむ顔ではなく、自身の過去や孤独にどこか重ねているような陰りも見える。内容のすべてを理解しているわけではないはずなのに、トキの語り口や間合いに引き込まれるように、じっと耳を傾け続けるヘブン。抑揚のつけ方や言葉の置き方の上手さも相まって、髙石あかりの語り手としての存在感が際立つシーンだった。

 怪談が終わると、ヘブンは「カイダン、アリガトウ」と深々と頭を下げる。その仕草には、怖さを味わったことへの感謝だけでなく、どこかほっとしたような安堵の色もにじんでいるゆうに見えた。自分の中でうまく言葉にできなかった感情を、トキの物語が代わりに整理してくれたように感じていたのかもしれない。

 ではもういっぺん。再び始まる、2人だけの深い夜。怪談という形を借りながら、ヘブンとトキは過去と向き合い、今の自分の気持ちを確かめ合う時間を重ねていく。これから語られていくであろう新たな怪談の数々が、2人の関係にどんな変化をもたらすのか。次の夜の約束が、いっそう楽しみになるエピソードだった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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