『じゃあ、あんたが作ってみろよ』勝男に永遠のリスペクト! 鮎美に抱いた“違和感”も

『あんたが』鮎美の物語に覚えた“違和感”

 個人的には第1話の時から吉井太平(楽駆)のメキシカンバーは客のノリ方含め、絶妙に「いや、ないない」と思ってしまうような非現実的な場所で、ただ「まだ遊び慣れていない鮎美」にとって「未体験の開放的な場所」として非常に記号的なのだ。逆に、遊び慣れている人間が飲む場所に対する解像度の低さは、鮎美視点としては正しいのかもしれないが。

 そんなバーで声をかけられただけでお店が出せると思ったり、調理師免許をとる前に店の資金について考えたり。初めて一人暮らしをする時も、風呂とトイレ別タイプの家賃相場感がないなど、鮎美は基本的にナイーヴなキャラクターとして最終話まで一貫して描かれている。しかし、そうやって無計画で何も考えずに家を飛び出すような彼女が“現実のように”詰まないために、吉井渚(サーヤ/ラランド)という、『シンデレラ』に出てくるフェアリー・ゴッドマザーのような存在が与えられているのだ。

 彼女と夫の太平のキャラクターとしての魅力は間接的には描かれていた。しかし、特に後半は鮎美というキャラクターが立ち止まって悩まないため(最終話で結局、調理師免許の取得が有耶無耶になりながらも簡単に彼女が自分の店を開けるような展開的都合のため)の存在でしかなかった点も、勝男サイドの人間関係ドラマの現実味や濃さを考えると、やはり釣り合いがあまり取れていない。

 それを踏まえて最終話の勝男と鮎美の会話を思い出すと、なかなか興味深い。勝男はリアリティラインを超えずにキャラクターとして目覚ましい成長を遂げ、鮎美に対して自分の気持ちをちゃんと言語化していた。一方、彼の気持ちがドラマを通してハッキリと描かれていたのに対し、リアリティラインの外で“世界を垣間見た”鮎美の気持ちはハッキリとわからず、勝男のような目覚ましい成長ぶりもあまり感じられない。

 しかし、それは意図的なようにも感じている。最初は勝男が「変わりたい」、鮎美が「伝えたい」で始まった物語だったが、最終話では勝男が「伝えたい」、鮎美が「変わりたい」になっているのが面白いのだ。そして鮎美の“変わらなさ”は、「今のあなたが一番素敵」という、勝男の行き着いた答えを踏まえても重要なのである。むしろ彼女にとって、勝男のような人間的成長物語は、これから始まるのだ。

 それぞれの物語におけるストーリーラインが一定ではないことへの違和感があれど、やはり別れることを選択したラストには頷ける。最初からそうなる気もしていた。筆者が感じた本作の素晴らしさは、別れた後の方が仲良くなって思わず甘い期待を抱いてしまった2人の様子を通して感じた「一度壊れたものはもう元に戻せないのかもしれない」という切ない痛み……そして、それゆえに今、目の前にいる相手を理解しようとすることを、想像することを、対話することを諦めてはいけないというメッセージにある。

 「じゃあ、あんたが作ってみろよ」と、第1話で視聴者である我々から一蹴された勝男が作れるようになったのは、円滑な人間関係、新しい世界、自立した生活だった。美味しい筑前煮が作れるだけでもすごいのに。勝男への尊敬の念は、ドラマの余韻と共にずっと心に残り続けるだろう。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の画像

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■配信情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TVer、U-NEXTにて配信中
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

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