前原瑞樹の人間力を『ばけばけ』制作統括も絶賛 お茶の間の“気になる存在”になる理由

髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
第10週では、前原瑞樹演じる借金取りの銭太郎が、借金をきちんと返すようになった松野家に「拍子抜けすうだが」とクレームをつける。続く第11週では、勘右衛門(小日向文世)と「なんだ貧乏人が!」「黙れ、貧乏人言うヤツが貧乏人だ!」とやり合う姿が描かれるなど、存在感がますます際立った。

思い返せば、銭太郎の初登場は第6週。父・善太郎(岩谷健司)が急死し、“二代目借金取り”として松野家に取り立てにやってくる。あまりに突然の世代交代だったが、制作統括の橋爪國臣もまた、この展開には視聴者と同じように驚かされたという。
「我々としては、善太郎を死なせるつもりはなかったんですよ。でも、脚本のふじき(みつ彦)さんがそう書いてきて。さすがに僕らも驚いてしまって、その意図についていろいろと話をしました。岩谷さん、岡部(たかし)さん、ふじきさんは3人で演劇もやられている仲なので、『こんなに早く退場させて大丈夫ですか?』と。そうしたら、ふじきさんが『岩谷さんは大丈夫です』とおっしゃって……でも、ご本人からは『なんで殺すの?』と恨まれました(笑)」
その上で橋爪は「ちょっと真面目な話をすると」と切り出し、「この週は、トキ(髙石あかり)がラシャメンになるのか、ならないのか、という局面にあって、“松野家が厳しい生活をしている”ということを描かなければいけなかった。それまで松野家の人たちは、貧しいけれど、なんだかんだ楽しい生活を送っていて、“貧しい切実さ”みたいなものがなかなか描けずにいたんです。けれども、そこが描けなければラシャメンになるという決断には至らない。銭太郎は、そのために生まれたキャラクターだと思います」と語る。
「善太郎はどことなく甘い借金取りで、トキをラシャメンになるところまで追い込もうとしなかった。そこで息子の代にかわって、少し追い込むような展開が必要かもねと。とはいえ、ただ厳しいだけの人には終わらず、結局、前原さんが演じるのでああいうおちゃらけたキャラクターになるんですけど(笑)。それが、ふじきさんらしい厳しさだとも思っています」

第10週では、10円という大金をフミ(池脇千鶴)から当然のように返された銭太郎が、「貧乏人のくせに、金持ちみてえに、毎月ようけ返しくさりやがって!」と悪態をつく。ところが、「冬だが。寒いがね。だけん今月は風邪ひかんように、体にようけようけ気ぃ付けて、休み休み、労わって労わって暮らせ。そんで、来月少のう返せ」と、根底にある優しさは隠しきれない。
さらに第11週では、ヘブン(トミー・バストウ)が松江を去ることになれば、トキの女中としての給金が入らなくなると、司之介(岡部)が大慌て。最終的に、ヘブンとリヨ(北香那)が結ばれれば「70円の給金がもらえるかもしれない」という結論に行き着くが、気を落とすトキを見た銭太郎は「もしかして、異人に帰ってほしいんでないのか?」と声をかける。最初は“厳しい借金取り”として背伸びしていた銭太郎の素顔が、はっきりと表れたかたちだ。



















