『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の結末は何が“正解”? 勝男と鮎美の“成長”を振り返る

大ヒットとなっているTBS火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。筆者の周りでは「今日、勝男の日だね」などと言って楽しみにしている人が多い。回を追うごとに、竹内涼真演じる海老原勝男というキャラが愛されていくのがわかって、面白い。
ジェンダーロールについて提言をするドラマはこれまでにもあったが、女性が主人公であることが主だった。または、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(2024年/ 東海テレビ・フジテレビ系)といった“おじさん”が主人公のものはあったものの、結婚適齢期の若い男性が主人公になっているものは珍しく、それが本作の特徴であり新しさとなっている。
最近の若者はジェンダーについてのアップデートはできていると思われているかもしれないが、知らず知らずのうちの偏見や思い込みが残っているのは事実に思える。先日も居酒屋で大学生らしき男性たちが「俺より偏差値の高い大学の子は彼女にはできないな」などと普通の顔で話していて、「勝男はここにもいる」と思わず一人ごちてしまった。
勝男は、名前にも表れている通り、大分県出身の九州男児で「男らしさ」を背負った男だ。大学時代には学内のミスターに選ばれており、就職先も一流メーカーらしい、いわゆる勝ち組男子だ。自分の価値観に迷いなどあるはずもなく、「男は強い、男は偉い、男らしく生きるべし」と教育されて、何不自由なく暮らしてきたのだろう。大学時代に出会った、同じくミスで王道のモテ女、夏帆演じる山岸鮎美との付き合いも順調とあって、自分のジェンダーに何の疑いも持ってこなかったはずだ。

当然のように、プロポーズすれば結婚して、普通の家庭を持つだろうと考えていたところで鮎美に振られてしまう。しかも、「わからないだろうし、もうわかってもらおうとも思わないかな」と言われてしまうまでに断絶していた。
勝男はここで生まれて初めて、生きづらさを味わうことになる。すぐにも彼女ができるだろうと思った合コンでは、その価値観の古さにドン引きされ、マッチングアプリでは、自分より稼ぎのいい女性にタジタジになる。何より、女のやっていることなんて誰にでもできると馬鹿にしていた料理の難しさを知って、自分自身の偏見に気がつく。そこから勝男の価値観のアップデートが始まる。

あまりにも順調な人生には、「気づき」というものがないということなのだろう。結婚が初めての挫折だった勝男の気づきと成長は目覚ましかった。台所をぐちゃぐちゃにしながら筑前煮を作るシーンや、「顆粒だしなんて」と言って鮎美を傷つけていたことを知って、顆粒だしの瓶を握りしめたままTシャツ1枚のままで追いかけるシーンなどは、いじらしいまでに切なく、視聴者はつい勝男を応援するようになっていた。
第5話では、優秀で男らしい兄・鷹広(塚本高史)が、悲しくても泣けないことを知り、自らが号泣して見せるというアップデートをした。男は黙って耐えなければいけないというバイアスのせいで、妻の不妊の悩みと向き合えなかった兄は、殻を破って妻と話し合うことができる。

第7話では、もう一人の兄・虎吉(深水元基)の小学生の娘・真鳥(鷲尾心陽)が、女の子らしいことが苦手だと知る。お人形遊びよりもキャッチボールが好きで、ヘアスタイルも洋服も性別にとらわれていない。当然のように赤いランドセルを用意する両親とは距離をとっていることに、勝男も納得するのだった。
勝男は素直だ。そして、その素直さがきっと彼を解放していくのだと感じる。





















