『ぼくたちん家』及川光博×手越祐也の“恋”にハマる人続出 BLの枠を超えた生きづらさ描く

『ぼくたちん家』及川光博×手越祐也の魅力

 放送が進むにつれ、徐々に『ぼくたちん家』(日本テレビ系)の魅力が浸透しているのを実感する秋クール中盤。

 中年である玄一(及川光博)を中心に、30代の索(手越祐也)、亮太(井之脇海)など、広い世代のゲイの生き様を描きつつも、第4話ではほたる(白鳥玉季)の実父・仁(光石研)の父としての不器用な承認欲求、第5話では面倒くさくない女性として生きてきたともえ(麻生久美子)のあらがいなど、世界にひっかかりを覚えて生きる立場の思いを丁寧に描くことで漂ってくる優しさに救われる人が多い証拠かもしれない。

 『ぼくたちん家』が特徴的なのは、明るく楽しく生きられるわけではない立場の人物たちを描きながらも、そこに悲壮感がないことだろう。ままならないことばかりの世の中でも、誰かと手をつないで長い時間をかけて進み続ければ、きっと遠くの明るいほうまで行けるはず。そんな前向きなメッセージを、「家具の組み立て」や「大盛りパフェ」「徒歩15時間という誤植」などの例えを使いながら、ユニークに伝えてくれる。歩いて行きたい明るいほうが、「まゆげが整えられる学校、会社」でもいい。

 第6話では、玄一と索がついに結ばれた。きゅっと絡んだ指は、2人にとってはじめてのかすがいなのだろう。玄一と索は結ばれたものの、そこに恋愛の瑞々しさがあるわけではなく、どちらかと言えばこの世界でともに生きたいと思える相手を見つけた安堵感が漂っているように見えた。

 世代が異なるゲイ2人を描く本作で、欠かせないのはやはり手越祐也の存在だろう。中年の玄一が、ゲイが置かれる立場を受け入れる一方で、30代の索は自分の生き方を確立しつつも、違う生き方を望む亮太の考えを受け入れられていなかったように見える。また、自分の中にまだ迷いがあるのも事実で、それを隠すようにトゲトゲした態度を取ることも多い。それでも、なんだか放っておけない魅力とかわいらしさがあるのは、パッと目を引く存在感を持つ手越が演じているからだろう。

 手越は、明るいわけでも、暗いわけでもないが、この世界にどこかモヤっとしたものを抱えて生きている索を、絶妙なバランスで演じている。この微妙な心情も本作のリアリティの一つなのかもしれない。そして、そんな不器用な索が玄一と共に生きることを決めて少しだけ前に進むことも、本作が描きたいことなのだろう。

 第6話では玄一が再会した鯉登裕太郎(大谷亮平)の人生を通して、ゲイ同士がともに生きることの現実を描いた。パートナーシップを結び、ともに住むための家を購入していても、国から正式に婚姻を認められているわけではない。また、広辞苑や保健の教科書での記載など、ほんの数十年前に実際にあった差別的な認識まで取り上げていた。

 『ぼくたちん家』は、第1話からゲイがぶつけられがちな侮蔑的な発言や視線、賃貸契約時のわだかまりなど、ゲイが生活の中でぶつけられる大小さまざまな偏見を描いてきた。本作には、ゲイ当事者である日本テレビ報道局・ジェンダー班の白川大介がインクルーシブプロデューサーとして参加している。白川が当事者として経験してきたこと、報道局員として培ったリサーチ力によって差別と偏見の現実、ゲイ同士であっても世代によって異なる価値観がリアルに表現されているのだ。公式サイトに掲載されている「玄一や策のような人をもっと知るためのコーナー」の5項目には、脚本監修だけでなく脚本の裏にある登場人物の心情を俳優に向けて解説したエピソードも記載されている。よりリアルな物語にするために、不可欠な人物だ。

 昨今、BLドラマは一つのジャンルとして認識されている。それほど、BLドラマが市民権を得ていることも、一種の進歩なのかもしれない。一方で、BLというジャンル自体を敬遠してしまう人も少なからずいるだろう。

 ただ、『ぼくたちん家』をBLドラマだと、ひとくくりにしてしまうのは本当にもったいない。きっと、あなたがぶつかりながらも、見て見ぬふりしていたこの世界の生きづらさにスポットを当てて、一緒に進もうと手を差し伸べてくれるドラマだから。玄一、索、ほたるがカバーするハイロウズの「バームクーヘン」に、救われる人がひとりでも増えますように。

『ぼくたちん家』の画像

ぼくたちん家

現代に様々な偏見の中で生きる“社会のすみっこ”にいる人々が、愛と自由と居場所を求めて、明るくたくましく生き抜く姿を描くホーム&ラブコメディ。

■放送情報
『ぼくたちん家』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:及川光博、手越祐也、白鳥玉季、田中直樹、渋谷凪咲、坂井真紀、光石研、麻生久美子
脚本:松本優紀、渋谷凪咲、田中直樹
演出:鯨岡弘識、北川瞳
インクルーシブプロデューサー:白川大介
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:河野英裕、西紀州、岡宅真由美
音楽:東川亜希子、神谷洵平
主題歌:「バームクーヘン」
制作協力:AX-ON
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/bokutachinchi/
公式X(旧Twitter):https://x.com/bokutachinchi
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