夏帆は心の迷いを瞳で表現する 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』鮎美役で際立つ表現力

『あんたが』で際立つ夏帆の表現力

 鮎美の瞳には、時折「力が宿る瞬間」がある。例えば第5話の中で、鮎美が勝男にとり天の作り方を教える場面のこと。戸惑う勝男に、鮎美は少し心配そうな表情で「むね肉、ひと口大にできる?」と声をかける。

 やがて、勝男が天ぷらの衣をシャカシャカと高速でかき混ぜ始めると、「あー! ちょっと待って!」と声を張り上げ、まるで母親のように親身になって卵の混ぜ方を語り始める。その声は、いつものおぼつかない調子ではなく、料理への確かな自信に満ちていた。得意な料理を教えることで、鮎美は誇らしさを感じていたのかもしれない。

 けれどその直後、勝男が「こうやって料理するの、初めてだね」と優しく言葉をかけると、さっきまで得意げに語っていた鮎美は一転、照れくさそうな笑みを浮かべる。その瞬間、鮎美がまだ勝男を「異性」として意識している様子が垣間見えた。

 第6話では、図書館で偶然再会した鮎美と勝男が、外で勝男の手作り小籠包を一緒に食べることになる。勝男は、椿(中条あやみ)に誘われて参加したパーティーで、自分の小籠包がぞんざいに扱われたことに、密かに憤りを感じていた。その思いが残っていたのか、鮎美に対しても小籠包の食べ方をつい執拗に語ってしまう。ところが鮎美は、嫌がるどころか「ごめん。教えて」と柔らかく笑みを浮かべる。

 その後、鮎美から「出汁から作っているんだね」「味に深みがあるね」と伝えられた勝男は、嬉しさのあまり「ああ……嬉しいなぁ」と感嘆の声を漏らし、少しずつ表情がほぐれていく。

 このシーンでは、鮎美がこれまで少し怪訝に感じていた勝男の「こだわり」を、ようやく理解し、受け止め始めていることが伝わってくる。

 そして勝男が、「鮎美に食べてほしくて料理を始めた」と静かに打ち明けると、鮎美の瞳にふっと光が灯る。その後、小籠包を嬉しそうに頬張る彼女の姿は、まさに恋する女性そのものだった。

 第6話のラストは、鮎美と勝男が偶然同じ大分行きの飛行機に乗り合わせているものの、お互いに気づかないまま終わるという、意味深なシーンで幕を閉じる。第7話予告では、ついに2人が鉢合わせし、「両家が暴走? 禁断の顔合わせ!」という刺激的なタイトルが添えられていた。

 予告の中には、「自分の手でなんとかする。そんな鮎美さんだから好きになったんです」と誰かに熱弁している勝男の姿があった。そんな彼を見る鮎美の瞳は、無垢で乙女のようにピュアな眼差しだった。他人の顔色を伺いながら、自分を押し殺してきた鮎美に、本当の幸せは訪れるのか。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の画像

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

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