『チェンソーマン レゼ篇』北米No.1の熱狂を現地レポート! “搾取”描くヒーローものが絶賛

『チェンソーマン レゼ篇』北米の熱狂をレポ

 「本当にヤバい映画は海を渡ってこない、でもサメは泳げるからサメ映画は例外」というミームを思い出して計算したところ、サメが太平洋を渡るのには理論上1カ月と少しかかるらしい。9月19日に日本で上映が開始された劇場版『チェンソーマン レゼ篇』(以下、『レゼ篇』)がカナダに上陸するまで1カ月かかったのは、ビームくんがこっちまで来るのに少し手間取ったからに違いない──。そんな妄想をしながら、現在バンクーバーに居住する著者も待望の上陸を果たした『レゼ篇』を観てきた。なるほど確かに、これは最高に良い意味でヤバい映画が渡ってきたものだ!

 その衝撃は実際の売上にも表れていた。興行収入を見てみると、『レゼ篇』は北米公開後に週末3日間で27.5億円(1790万ドル)(※1)の売上を達成したという。日本での興行収入が公開後42日間で73.8億円ということを考えると市場の大きさに驚かされてしまうが、北米のみで比較してみても、これは週末3日間興収が500万ドル(※2)ほどだった『すずめの戸締まり』のおよそ3倍にも上るということだから驚くべきヒットといえる──なんと、10月31日から11月2日の週末興行収入では北米No.1を獲得したほどだ! 今回はそんな『レゼ篇』が北米でどのように受け止められているかを見てみよう。

映画館の様子

北米版『チェンソーマン レゼ篇』の映画館の様子(写真=ホワイト健)

 筆者は公開3日後にIMAXシアターで本作を鑑賞してきたが、21時30分開始というかなり遅い枠だったにもかかわらず、広めの劇場は7割ほど埋まっていた。公開日でもないレイトショーとしては珍しいことで、先日同じ時間帯に観たリーアム・ニーソン主演の2025年版『裸の銃(ガン)を持つ男』初日の入りと同じくらいだったのを記憶している。なお、観客のほとんどは20代の学生から新社会人らしき男女だったが、中年くらいの観客も数名見られた。

 とはいえ、カナダに渡ってくるアニメ映画は基本的に上映期間がかなり短い(先日上映された『ひゃくえむ。』の場合は2〜3日の限定上映だった)ので、客が集中すること自体は意外ではない。驚いたのはその雰囲気だった。異様なくらいに静かだったのだ! ちょっとしたコメディでも爆笑が起きたり、衝撃のシーンでは一斉にひゅっと息をのんだり、北米では全体的に観客の反応が大きい傾向がある。にもかかわらず、『レゼ篇』は驚くくらいに静かだった。観客がいかに没入していたかがよく伝わってくる100分だった。

 何より驚いたのはエンドロールの最後まで残る人の数だ。カナダを含め、北米の映画館の特徴として大抵の映画ではエンドロールが開始するや否や観客が席を立ち始め、クレジットが流れ終える頃には頑なに席を立たない私と(早く清掃を開始したそうな)劇場スタッフの2人しかいないことがほとんどだ。なのに、『レゼ篇』では体感で実に8割くらいの観客が最後まで残っていた。「映画」という媒体自体に拘りのある藤本タツキの情熱が共鳴していたかのように感じられた。

個人的にはどうだった? 周囲の感想

 『レゼ篇』を観た友人たちの意見も聞いてみた。アメリカの友人は「ヒーローもののアニメーションでここまでナラティブに深みがあるものは滅多にない」と、1時間40分という限られた時間の中で登場人物の感情、関係性をここまで掘り下げられていたことに驚いていた。シリーズを知らない観客でも感情移入できるデンジとレゼ(アキと天使の悪魔も?)の関係は確かに原作にもまして感動を誘うものになっていたといえる。

 ヒーローものという繋がりでいえば、他の知人からは「みんなチェンソーの心臓ばっか欲しがっちゃって! デンジーの心臓は欲しかねえのか!?」のくだりを「みんなスパイダーマンになりたがるけど、ピーター・パーカーになりたい人は一人もいない」という『スパイダーマン』のセリフと重ねる感想も出てきた。北米のオーディエンスに響いた一因として、デンジがヒーローものに普遍的な葛藤を抱えていたことも一因かもしれない。

 また、文化の違いを感じた部分は? とカナダ人のルームメイトに聞いてみたところ、意外な答えとして「公安周りが不思議だった」と返ってきた。現場の人間を含め、公務員が全員スーツで働いているさまが新鮮に感じられたという。また、「公安」という言葉を聞いたとき、日本人であれば誰しも「警察関係の少し特殊な組織」くらいのイメージは湧くだろうが、スーツ姿で戦う「Public Safety」なる組織を見てそれがどんな機関なのか、現実に存在するもののパロディなのかといったことを認識できる北アメリカ人は少なそうだという話も上がった。

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