『小さい頃は、神様がいて』は『魔女の宅急便』と重なる? 岡田惠和が描く女性たちの葛藤

一方、あんの告白を目に涙を溜めながら聞いていたのはさとこ(阿川佐和子)だ。子どもが巣立ってから持て余していた一軒家を手放し、夫の慎一(草刈正雄)とたそがれハイツの1階に引っ越してきたシニア女性。慎一は仕事楽しさで家庭を顧みず、家事も子育てもさとこに任せっぱなしだったという。だが、さとこ自身、「私たちの頃はね、もっともっとまだまだ、女は妻は母はこうあるべきだっていう時代だったのね。それは男たちがそういうふうに考えていただけじゃなくて、女たちもそんなふうだったのね」と語っていたように、それを甘んじて受け入れていたところがあるのだろう。そんな彼女からしてみれば、あんのように妻として、母としての生き方に疑問を持てること、それ自体が羨ましいのではないだろうか。

2階に住むレズビアンカップルの奈央(小野花梨)と志保(石井杏奈)は同じ職場で働きながら、一緒にキッチンカーを開く夢のためにお金を貯めている。好きなものにまっすぐで、自分の力で道を切り開いていこうとする彼女たちの姿は眩しい。そもそも同性カップルがBLやGL作品ではなく、GP帯ドラマにごく自然な形で登場すること自体が大きな進歩。けれど、未だに偏見や差別が存在することは、2人が語る言葉から伝わってくる。時代が変わっても、女性の悩みは尽きない。

『魔女の宅急便』では、絵描きのウルスラ(18歳)、パン屋のおソノさん(26歳)、キキの母・コキリ(37歳)、ニシンのパイの老婦人(70歳)と、さまざまな世代の女性がキキを取り巻き、その成長過程を物語っている。彼女たちは多くを語らないけれど、きっとそれぞれあんたちのような悩みや葛藤を抱えているはず。

本作において、キキに一番近い立場にいるのはゆずだ。第3話で視聴者から反響を呼んだ、渉の号泣ラジオ体操。あんに「愛してるから離婚する!」と宣言する直前、渉が思い出していたのは、まだ子どもたちが小さい頃に家族でラジオ体操に参加した日のことだった。その日、微熱があったが、皆勤賞を達成するために頑張ってラジオ体操を終えたゆず。「なんでもできるんだよ、ゆずは。自分の力で!」と語りかけるあんに、筆者はキキの母、子どもの成長を実感して思わず涙する渉に、「いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう。上手くいかなかったら帰ってきていいんだよ」と抱きしめるキキの父の姿をそれぞれ重ねた。それから随分と時間はかかったけれど、あんの思いを知ったゆずは自立を決意する。
人生100年時代とも言われる今、子どもが巣立った後も親の人生は長い。たとえ50歳であっても、あと半分。キキが旅立った後も彼女の両親は当たり前のように仲良く暮らすが、果たしてそれは今の時代、リアルと言えるのか。渉とあんの選択は、これからの夫婦のセカンドライフに大きな影響を与えるような気がする。
参照
※1. https://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/20251181.html
※2. https://realsound.jp/movie/2022/04/post-1019190.html
■放送情報
『小さい頃は、神様がいて』
フジテレビ系にて、 毎週木曜22:00~22:54放送
出演者:北村有起哉、小野花梨、石井杏奈、小瀧望、近藤華、阿川佐和子、草刈正雄、仲間由紀恵
脚本:岡田惠和
主題歌:松任谷由実
音楽:フジモトヨシタカ
演出:酒井麻衣
プロデュース:田淵麻子
制作プロデュース:熊谷理恵、渡邉美咲
制作協力:大映テレビ
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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