『ばけばけ』髙石あかりは異質の朝ドラヒロインなのか “お家第一”だから滲む個人の尊さ

銀二郎(寛一郎)が退場し、錦織(吉沢亮)がイン。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第4週「「フタリ、クラス、シマスカ?」(演出:松岡一史)はヘブン(トミー・バストウ)登場までの前哨戦と思っていいだろう。
視聴者は松野家に婿入りした銀二郎にすっかり感情移入し、このままトキ(髙石あかり)と仲睦まじく夫婦生活を送ってほしいと願うようになっていた人も少なくないだろう。それだけ銀二郎にひとつも悪いところがなく、ひたすら純粋無垢に描かれていたからだ。

いわゆる銀二郎は従来のヒロインのようであった。だが、『ばけばけ』の世界では銀二郎のような人は、言葉は悪いが不要なようで。この世界はノイズにまみれ、清と濁とが区別なく混ざった場所であり、むしろダメなところや困ったところを持っている人のほうが重要視される。ただ、銀二郎も膨大な借金のために働き続けることを拒否して逃亡を選んだ点においては、愛する人のために最後まで忍耐する、滅私の心をもった完璧なヒロインではなかったかもしれない。
逃げた銀二郎をトキが追う。女性が遊郭で働いていて足抜けした場合、連れ戻されてまた働かされる。松野家の借金返済要員として婿になった銀二郎にはかような遊女の悲劇が重なって見える。もちろんそれなりにトキと銀二郎はほのぼのと好意を抱いていたようではあった。銀二郎が置き手紙を残して消えたとき、トキのセリフはこうだった。
「私のせいだ せっかく来てくれたのに 甘えちゃった ずっと一緒だと思って」(第16話)。ここには最大限の銀二郎への反省があると感じる。だが、たとえそうだとしても好きな人がいなくなったショックというより、大事な働き手に気遣いがなかったという経営者のような心情が見てとれるのではないか。傅(堤真一)のようにたまにはカステラを振る舞ったりしないといけなかったのだ。飴と鞭の大切さ。
東京に出て来たトキは錦織に出会う。銀二郎は彼の下宿に一緒に住んでいた。「大盤石」と呼ばれるほどの松江随一の秀才である錦織が、銀二郎からヘブンにバトンタッチする間を埋めてくれる。そう思うのは、彼が銀二郎に勝るとも劣らない純粋無垢というか高潔な人物に見えるからだ。文机に向かって座っているとき(第18話)の微動だにしない姿勢のまっすぐさ。彼はトキと銀二郎の事情を察し、ふたりの幸せを願う。「東京はやり直せる場所だ」と、自分にとってもそうだったと言うのだ。

ところがそんな錦織の何気ない言葉が、逆にトキと銀二郎を引き離すことになろうとは、まったく運命とは残酷なものである。
トキと銀二郎が東京で、家制度から解き放たれ、ようやく個人として向き合ったと思ったのも束の間、ある日、トキが得意の怪談がたりをしようとすると、錦織が怪談は古くさいと否定する。いまは西洋文化を取り入れる時代だと言うのだ。
錦織の考えが釈然としないトキに、西洋文化を知ってもらおうと、錦織の友人で帝大生の根岸(北野秀気)が西洋風ブレックファーストを用意する。そこで出たのが牛乳で、飲むと鼻の下に白ひげが生えたようになった。牛乳がトキにかかった東京の魔法が解いてしまう。




















