『ファイナル・デッドブラッド』なぜシリーズ最大のヒットに? “死の描写”のリアリティ

『ファイナル・デッドブラッド』ヒットの理由

 今回も、日常に潜む“死の恐怖”が次々に襲いかかってくる。親戚たちが集まったホームパーティーでは、ドリンクの氷にガラスが混入したり、トランポリンの下に鍬が投げ出されていたり、芝刈り機が無防備な状態で置かれているなど、危険な要素に満ちている。本作を鑑賞して、「家の中が恐ろしくなった」という声も聞かれるように、その描写には優れたリアリティがある。

 このリアリティを下支えしているのが、可能な限り実写を使用した特殊効果だ。『ファイナル・デスティネーション』シリーズの魅力は、やはり死の瞬間の光景にこそある。映画界のトレンドとして、アナログやヴィンテージの“本物感”が重視されるようになった現在、本作はその意味で“アップデート”された最新型にチューンナップされていることになる。だからこそ、本作を鑑賞した直後は、エレベーターに乗ることすら躊躇してしまうくらいに恐怖心を植え付けられてしまうのだ。

 さまざまなバリエーションの脅威に、ユーモアがふんだんに盛り込まれているところも見どころだ。リチャード・ハーモン演じる、タトゥースタジオの男性が、鼻ピアスが天井のシーリングファンに引っかかって引き込まれていく、一人相撲の過程は、大きなスケールに対する個人的な恐怖として楽しめるシーンとして機能する。

 一方、「スカイビュー」のシークエンスは、もはや芸術的だといえるほど、圧倒的に完成度が高く、これだけでも本作を観る理由となり得るだろう。スカイビューレストランのセットは耐火仕様として造られ、消防の要員が待機する環境で、CGではない本物の火を使用しているのだ。一方、スカイビューと街の風景をリアルに表現するために、ドローン撮影によって街の広い範囲のデジタルデータを取得したスタッフは、CGによってさまざまな構図やカメラワーク、時間経過に対応する背景をデザインし、縦横無尽の大スケール撮影を可能にしている。このようなアナログ、デジタルの両面によるアプローチが、本作の価値を飛躍的に持ち上げているといえるのだ。

 そして本作では、シリーズでお馴染みのキャラクター、ウィリアム・ジョン・ブラッドワースが、印象的な場面で登場する。演じているトニー・トッドは、『キャンディマン』シリーズでも有名な俳優。本作の撮影当時は闘病中で余命宣告を受けている状況にあったといい、実際、この出演が彼の最後の映画出演となってしまった。無理をして本作に挑んだことは、現場でも明らかだったことから、監督はトニー・トッドに、自身のメッセージをそのまま喋らせたのだという。

 “死”は誰にでもやってくるものであり、病気や事故など、突然にそれが訪れることも珍しいことではない。本作のような“死の運命”という概念は映画だけのものだろうが、全ての人々が死から逃れられない運命にあることは事実である。そういった現実を直視することを、ラテン語では「メメント・モリ(死を忘れるな)」と言い、修道士が身のまわりに骸骨を置いて常に死を意識するなどの風習につながっている。そういった意味では、本作『ファイナル・デッドブラッド』は、われわれ映画の観客にとっての「メメント・モリ」であり、“死を思い出す”ための骸骨といえるのではないだろうか。

■公開情報
『ファイナル・デッドブラッド』
全国公開中
出演:ケイトリン・サンタ・フアナ、テオ・ブリオネス、リチャード・ハーモン、オーウェン・パトリック・ジョイナー、アンナ・ロア、ブレック・バッシンジャー、トニー・トッド
監督:アダム・スタイン&ザック・リポフスキー
キャラクター創造:ジェフリー・レディック
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Final Destination Bloodlines/R18+/109分
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