『君の声を聴かせて』『グッドニュース』で新境地 “変幻自在俳優”ホン・ギョンの現在地

ホン・ギョンの変幻自在な芝居に目を惹かれることが多くなった。現在、日本でも公開中の韓国映画『君の声を聴かせて』では、本作で百想芸術大賞の映画部門女性新人演技賞を受賞したノ・ユンソと、アイドルグループ・IZ*ONE出身の新進女優キム・ミンジュと共演。ホン・ギョンは、大学を卒業後やりたいことが見つからずに両親が営む弁当屋を手伝う、主人公の就活生ヨンジュン役を演じている。
ヨンジュンは、弁当の配達先で出会ったヨルム(ノ・ユンソ)に一目惚れするが、彼女は聴覚障がい者で水泳のオリンピック代表を目指す妹ガウル(キム・ミンジュ)を支えることに忙しい。少しずつヨルムとの距離を縮めていくヨンジュンは、大学で習った手話を通じてヨルムと心を通わせ、それぞれ悩みを抱えてすれ違うことがありながらも、ガウルの夢を後押しするのだった。台湾映画『聴説』をリメイクした本作は、手話でのコミュニケーションを丁寧に描いている。3人の夢や恋をちりばめた青春映画で、観た後の爽快感もあり、心が温かくなる。ただ、当初はあのホン・ギョンがピュアなラブストーリーの主演を務めるとはどんな映画に仕上がっているのだろう、と思った。

なぜなら、とくに昨今の彼の出演作はラブストーリーとはかけ離れた役が多く、さらに主演で物語をどのように紡いでいくのか想像できなかったからだ。しかし、そんな心配をよそに、ヨルムを想う潤んだ瞳には恋する喜びがあふれていたし、優しくて一途なヨンジュンを見せてくれたホン・ギョン。実際、本作でホン・ギョン、ノ・ユンソ、キム・ミンジュの3人にインタビューしたが、ホン・ギョンは「この映画は初恋の物語でもあり、誰もが経験する初恋の貴重な瞬間をどんなふうに出会って迎えるのか、自分の中でしっかりと考えながら意識して演じるようにしていました」(※1)と演技に対しての真摯な姿勢を語っていた。さらに、「僕は日本の映画が好きです」と山中瑶子監督や黒沢清監督といった監督や日本映画の名前が彼の口から出たり、取材中も日本語で挨拶したり、終始穏やかでにこにことしていた姿が印象的でもあった。
そんなホン・ギョンについて、近年の代表的な作品に絞って振り返ってみたい。1996年2月14日生まれの現在、29歳。2017年、スターの登竜門といわれる学校シリーズの7作目『恋するレモネード』で俳優デビュー。以降、いくつかの作品への出演を続け、着々と演技力を身に付けていく。そして3年後、転機が訪れる。2020年、初めての商業映画デビュー作となった、シン・ヘソン主演の法廷サスペンス映画『潔白』に出演する。
同作は、幼い頃から父親の虐待を受けていた主人公が家を出てエリート弁護士になり、父親が亡くなった葬儀場で農薬入りマッコリを使った集団殺人事件の容疑者となった母親を弁護するも、やがて驚くべき真実を知るというストーリー。ホン・ギョンは、主人公の弟で自閉症のアン・ジョンス役を務めているのだが、個性のあるジョンスの演技に釘付けになる。終始シリアスな展開で進むなか、ずっと変わらないジョンスの無邪気さは、緊張感が続くなかでちょっとした平穏を導いてくれる。同作においてホン・ギョンは百想芸術大賞の映画部門男性新人演技賞を受賞。若手実力派としての評価を獲得し、大きな注目を集めた。




















