『ばけばけ』“朝ドラらしからぬ”映像が心地いい “岡部たかし・ひろき親子”の共演も

『ばけばけ』“朝ドラらしからぬ”映像の魅力

「それではもう一つの話、よろしいですか?」「では……私、トキの話を」

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、物語の主人公である松野トキ(髙石あかり)自身が外国人の夫・ヘブン(トミー・バストウ)に語り聞かせるかたちで幕を開けた。

 本作は、松江の没落士族・小泉セツとその夫で作家の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルに、怪談を愛する夫婦の何気ない日常を描く物語。その初回放送を観ながら、頭の中で「朝ドラらしからぬ」というワードが何度もよぎった。

 「朝ドラらしくない」と感じさせる最大の要因は、映像のルック。ろうそくと行灯の光がメインで補助的にLEDライトを使用するにとどまった夜のシーンのみならず、昼間のシーンも過度な照明を使っておらず、全体的に彩度が低めで、ほの暗い。冒頭、CGの蛇と蛙に扮した阿佐ヶ谷姉妹が「やだ、ちょっと朝よ!? 夜だけど……朝なのよ!」とツッコむ。まさに今が夜なのか、朝なのか分からなくなる不思議な感覚で、寝起きにはむしろありがたい。

 心地よい暗さは、佐野遊穂と佐藤良成によるデュオ・ハンバート ハンバートが手がけた主題歌「笑ったり転んだり」にも感じる。〈日に日に世界が悪くなる〉〈野垂れ死ぬかもしれないね〉という「朝ドラらしからぬ」ネガティブなワードが並んでいるが、良いことばかりではない人生を丸ごと包み込むかのごとく2人の歌声が優しく響く。

 1868年、明治の世が開かれる。それは代々松江藩の家老を務めてきた松野家にとって、うらめしい時代の始まりだった。小学生のトキ(福地美晴)は夜中に連れ出され、一家で丑の刻参りへ。父・司之介(岡部たかし)と祖父・勘右衛門(小日向文世)は武士の世を終わらせたペリーや新政府軍への恨みを込め、藁人形に釘を打つ。これもまた「朝ドラらしからぬ」シーンだ。

 翌朝、トキは学校で同級生から「呪っちょる暇あったら、おやじ働かんか」とからかわれる。明治維新で特権を失った武士たちの多くが商人や役人になり、新しい時代に適応しようとする中、司之介は武士のプライドから働こうとせず、松野家は借金を抱え、貧しい生活を送っていた。身分制度の廃止による人々の混乱は2年前の朝ドラ『らんまん』でも描かれていた通り。商人の息子である万太郎は学校に豪華なお重弁当を持参し、武士の子どもたちの反感を買っていじめられるが、トキはその逆。時代の流れについていけないことでいじめられ、担任の先生・谷川原(岡部ひろき)からも「おトキの父上は大変怠けちょられる」と言われる始末だ(なお岡部たかしと岡部ひろきは親子であり、実の父を批判する面白シーンになっていた)。

 父親をバカにされて悲しむトキに、母・フミ(池脇千鶴)は「あなたが生まれたすぐあとに時代が変わって、明治の世になって、戸惑って、それからずっと立ち尽くしちょるの」と語りかける。司之介の哀愁漂う背中、「父上は悪くない」と自分に言い聞かせるトキの涙、その腕をさするフミの温かみのある手が松野家の歴史を物語っていて、胸がぎゅっと締め付けられた。そうした切なさを笑いで包み込む家族団欒のシーンはふじきみつ彦の真骨頂。淡々とした物語の運びのなかに、生きる悲しみとおかしみが凝縮されている。ストーリー、映像、音楽。その全てで表現される光と闇のコントラストが、うらめしくもすばらしいトキとヘブンの物語を作り出していくのだろう。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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