『ばけばけ』は髙石あかりの魅力と凄さが全開の朝ドラに “しじみ汁”ブームも巻き起こす?

『ばけばけ』髙石あかりの魅力が全開

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、9月29日よりスタートする。

 本作は、松江の没落士族・小泉セツとその夫で作家の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルに、何気ない夫婦の日常を描く物語。

 試写にて第1週を観て筆者がまず『ばけばけ』に感じたのは、「朝ドラらしくない朝ドラ」だということ。それが分かりやすく表れているのは、映像のルックである。『ばけばけ』では光と闇の表現が重要なテーマの一つとなっており、第1話冒頭、トキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)に怪談を語り聞かせるシーンは、その象徴と言えるだろう。はっきり言ってしまえば、朝ドラ視聴者の心を掴めるかどうかが決まる最も重要な数分間。そこではゆらゆらと揺らぐろうそくの灯りがトキ、そしてヘブンのそれぞれの表情を照らしている。

 『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ばけばけ Part1』を読むと、同じシーンではろうそくだけでなく行燈、補助光としてこっそりとLEDライトが使われているようで、照明担当の根来伴承は「このドラマは暗さの設計が従来の朝ドラとは大きく異なります。闇の部分をしっかりと見せないといけない。そのためにも印象的な光を作っています」と話している。

 また、同書のインタビューの中で脚本を務めるふじきみつ彦が、制作統括の橋爪國臣から「朝ドラの型にはまらない、朝ドラっぽくないものを書いてくださると思った」と明かされたことを振り返っている。『ばけばけ』が描くのは何気ない日常と、時折顔を覗かせるおかしみ。トキをはじめとする松野家は波乱万丈な人生を送っていくが、それをドラマチックな悲劇にはせずに、失敗をしながらも明るく天真爛漫に日々を生きていく。トキ、司之介(岡部たかし)、フミ(池脇千鶴)、勘右衛門(小日向文世)の松野家によるクスッとしてしまうような会話劇、テンポ感が『ばけばけ』特有の空気を形成している。

 ふじきと15年一緒に演劇を作ってきた岡部たかしがヒロインの父親役、そしてトキとヘブンを見守る蛇と蛙、いわゆるドラマの語り手を阿佐ヶ谷姉妹が担当していることも、本作の世界観を作り出している大きなポイント。第1話冒頭にてトキとヘブンが唇を近づけるシーンで入れられる、「やだ、ちょっと朝よ! 夜だけど、夜だけど朝なのよ!」という絶妙な塩梅のセリフは、まさに朝ドラらしくないおかしみのある語りと言えるだろう。阿佐ヶ谷姉妹は、ふじきが脚本を務めたよるドラ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(NHK総合)を経ての、ふじき本人のキャスティングだという。

 そして、なんと言っても本作の中心にいるのはセツを演じる髙石あかり。第1週ラストの第5話より、髙石による18歳のセツは本格登場。トキはマイペースでいて、嘘のつけない女性だ。徐々に話が進み始める縁談のシーンを筆頭に、その心の機微を表現する、自然体の髙石の芝居に惹きつけられ、時に圧倒される。第1話冒頭のヘブンとのシーンは、やがて訪れる未来の2人を描いた場面だが、ヘブンが言う“世界でいちばんの、よきママさん”となったトキをすでに好演しており、『ばけばけ』では髙石が俳優として化けていく姿を目の当たりにできそうだ。

 セツが大好きなものとして劇中に頻繁に登場するのは、怪談としじみ汁。筆者が試写を観て真っ先に湧いたのは、「しじみ汁が飲みたい……!」という食欲だった。オンエアが始まってから、しじみ汁ブームが起こりそうな予感を抱きつつ、しじみ汁の味噌もしじみも全て島根県産とのこと。そんな細部にまでこだわりが詰め込まれているようだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
9月29日(月)スタート 毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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