芋生悠、『ばけばけ』イセ役で示す積み重ね 『ソワレ』などで磨いたキャリアが朝ドラへ

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第20週からは舞台が熊本へ移り、新たな人物たちが物語に加わった。その1人が、芋生悠演じる吉野イセである。村に暮らし、言い伝えに詳しい一方で「呪われているらしい」と噂される謎めいた女性だ。芋生にとっては朝ドラ初出演となるが、彼女の歩みは決してここから始まったわけではない。映画やドラマの現場で積み重ねてきた時間が、この一役へとつながっている。

これまで映画を中心に歩みを重ねてきた芋生が、毎朝の時間帯に登場する。その事実だけで、どこか新鮮な驚きがある。筆者はかねてから、芋生の持つ静かな強さは、日常の積み重ねを描く朝ドラと相性がいいのではないかと感じていた。映画『ソワレ』で見せた、感情を声高に語らずとも伝えてしまうあの佇まい。NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』や配信作品での立ち位置も含め、派手に場をさらうというより、空気の流れをわずかに変える俳優であるという印象があったからだ。
芋生は2014年の「ジュノン・ガールズコンテスト」でファイナリストに選ばれ、翌年から俳優として活動を始めた。映画の現場で1本ずつ経験を重ね、少しずつ信頼を積み上げてきた。青春映画から社会派作品まで幅広く出演し、『37セカンズ』や『ひらいて』など、トーンの異なる作品群の中で確かな存在感を示してきた。2018年には主演映画『あの群青の向こうへ』で『門真国際映画祭2018』最優秀主演女優賞を受賞。さらに、同じく主演映画『ヒロイン』では、『ながおか映画祭2018』と『いぶすき映画祭2018』で審査員特別賞を受賞するなど、映画祭の場でも評価を重ねている。早い段階から主演作で結果を残しながら、作品ごとに表現の引き出しを増やしてきたタイプだといえるだろう。
中でも転機となったのが『ソワレ』である。100人を超えるオーディションを経てヒロインに選ばれ、過去に傷を抱えた少女タカラを演じた。声を張り上げるでもなく、涙を誇張するでもない。沈黙の長さや、ふとした瞬間の目の揺れで感情を滲ませる。その抑制の効いた芝居が、かえって観る側の想像力を強く刺激した。
その後も活動の幅は着実に広がった。連続ドラマ『あなたはだんだん欲しくなる』(BS-TBS)で主演を務め、舞台『広島ジャンゴ2022』にも出演。映像とは違い、ごまかしのきかない舞台の緊張感の中で、身体ごと役を立ち上げる力を鍛えてきた。テーマに据えたのは「身体の解放」。自分がなぜ絵を描くのか見失っている画家の女性を主人公に、言葉に頼りすぎず、身体の動きや空間の使い方で心の揺れを描いている。上映後には舞台上でパフォーマンスも行い、映画と現実の時間をつなぐ構成を選んだ。演じる側として積み重ねてきた感覚を、今度は物語の作り手として組み立て直す。その試みは、俳優としての経験を別の角度から掘り下げる一歩でもあった。

朝ドラは、毎日の生活の中で視聴者と時間を共有する形式である。劇的な転換点だけでなく、日々の小さな変化が積み重なっていく。その中で、ふとした瞬間に心に引っかかる存在がいると、物語はより深く響く。芋生は、そうした引っかかりを生むことのできる俳優だ。芋生は出演にあたり、「イセという存在が、物語の中で少しだけ違う呼吸をしていたらと思います。画面を通して、その気配がそっと届いていたら嬉しいです」と語っている(※)。イセが物語にどんな影を落とすのかは未知数だが、少なくとも単なる謎の人物で終わることはないだろう。
熊本編が進むにつれ、イセが物語の中でどのように存在感を増していくのかは見どころのひとつだ。噂に包まれた人物が、いつ、どんな瞬間に1人の人間としてこちらに迫ってくるのか。その変化の積み重ねに、芋生悠という俳優の確かな力が表れていくだろう。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2274939.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK























