“ひめゆり学徒隊”から着想を得た『cocoon』 伊藤万理華&満島ひかりが導く“戦争の記憶”

物語は主人公・サンと、いつも彼女のそばにいるマユを中心に、過酷な環境下で生きる者たちの姿を描いていく。サンはあどけなさの残る少女だが、芯は強い。けれども自分に自信がない。そんな彼女は大人っぽいマユに特別な感情を抱いている。マユはみんなから頼られる、誰もの憧れの存在だ。
少女たちが集まれば、たちまちにぎやかな時間になる。戦時下であってもだ。どんなときでも自分の身なりに気を遣う者、控えめなタイプの少女、無邪気な性格の双子の姉妹――。みんなそれぞれに特別な個性を持っていて、一人ひとりのかけがえのない人生が沖縄の地で交差する愛しい時間が描かれる。敵機襲来をやり過ごせば、みんなの歓声が上がる。もしもスマートフォンを持っていれば、TikTokで動画を投稿しているかもしれない。彼女たちの姿を目にしていると、現代を生きる少女たちとほとんど変わらないことが分かるだろう。
サンの声を演じているのは伊藤万理華で、マユの声を演じているのは満島ひかり。サンの持つ子どもっぽさや心の揺らぎをその声ににじませる伊藤は、ずっと『cocoon』の大ファンだった。2018年の4月に発売されたクイック・ジャパンのvol.137にて今日マチ子と初めて対面し、『cocoon』は何度も何度も繰り返し読んだ大好きな作品なのだと自身の想いを語っている。伊藤は感情の揺れを声だけで表現しているが、彼女の声そのものには“意志”があるのを感じる。芯の強いサンのキャラクター像と見事に重なる声だ。

これをマユ役の満島が包容力のある凛々しい声で導いていく。彼女らを中心とした声のアンサンブルも素晴らしい。あの沖縄戦を舞台にした作品とあって、もしかすると触れることを躊躇している方がいるのではないだろうか。けれども彼女らの声の力が、原作とも、舞台版とも異なる愛らしさをサンやマユにもたらしている。親しみやすさをもたらしている。
とはいえもちろん、少女たちがたどる運命は残酷だ。非人道的な所業も描かれる。集団自決もある。過酷な状況下で肉体的にも精神的にも疲弊し、正常な判断ができなくなっていくさまに息が苦しくなる。だがこのアニメ化では、幅広い層の人々が『cocoon』に出会うべく、さまざまな工夫が施されている。が、それはぜひ実際の映像を視聴して確かめてほしい。
本作は沖縄戦で命を落とした少女らの悲惨さを訴えるだけのものではない。ある者には夢があり、ある者には憧れの存在があった。それはいまこの時代を生きる私たちと同じだ。サンやマユと同世代の人々なら、彼女らの姿といまの自分自身とを重ねずにはいられないだろう。少女時代を過ぎた人々ならば、夢と憧れで胸がいっぱいだったあの頃を思い出すに違いない。これは昔話を描いた作り話などではなく、この現実と地続きの物語に光を当てた作品なのだ。とにかく観てほしい。触れてほしい。彼女たちの姿に。その想いに。それはひるがえって私たちのいまこの瞬間や、未来について考えることにもつながるはずである。
■放送情報
『cocoon 〜ある夏の少女たちより〜』
NHK総合にて、8月25日(月)23:45〜放送
※放送予定は変更になる場合あり
声の出演:満島ひかり(マユ)、伊藤万理華(サン)
原作:今日マチ子『cocoon』(秋田書店)
監督:伊奈透光
音楽:牛尾憲輔
アニメーションプロデューサー:舘野仁美
©今日マチ子(秋田書店)NHK/NEP






















