『ばけばけ』で再確認する芋生悠の実力 『ソワレ』など名演を堪能できる必見の3作

芋生悠の名演を堪能できる必見の3作

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』での好演によって、芋生悠の名前を目にする機会が一気に増えた。声を張り上げるでもなく、大きな身振りで感情を示すわけでもない。それでも画面に映った瞬間、視線を奪う力がある。静かな芝居なのに、どこか底知れない圧が漂っている。

 とりわけ第104話は、その存在感を決定づけた回だったように思う。物語の怖さを底上げしていたのは、芋生の語り口だ。淡々としているのに、言葉が耳の奥に残る。間の取り方、視線をふっと落とすタイミング。その一つひとつが、朝の時間帯には似つかわしくない温度を生み出していた。怪談そのものの内容もさることながら、語り手である彼女の佇まいが、恐怖を何倍にも増幅させていた。そこで今回は、『ばけばけ』で知った人に向けて、芋生の演技力が強く印象づけられた出演作を振り返ってみたい。

『ソワレ』

映画『ソワレ』特報

 2020年公開の映画『ソワレ』は、俳優を目指して上京した翔太(村上虹郎)が、故郷の和歌山にある高齢者施設で演劇を教えることになり、そこで働くタカラ(芋生悠)と出会うところから始まる。刑務所帰りの父親の暴力が再びタカラを追い詰め、彼女が父親を刺したことを境に、追われる身になった若い男女の逃避行を描くロードムービーだ。芋生の名前をこの作品で知ったという人も少なくないだろう。

 芋生が演じたタカラは、過酷な状況のなかでも感情をぶつけて突破するタイプではない。印象的なのは、叫びや泣き崩れで気持ちを説明する場面がほとんどなく、長回しのショットと言葉のない時間が積み重なっていくことだ。カメラはタカラの表情を近い距離で捉え、目線の揺れや口元のわずかな動きだけで、怖さ、迷い、覚悟が混ざり合う心の動きを浮かび上がらせていく。

『ソワレ』©︎2020 ソワレフィルムパートナーズ

 刑務所帰りの父親を、そばにあったはさみで刺してしまったタカラは、翔太に向かって「ずっとひどいことされてきたんよ」と静かに、しかしはっきりと言い切る。叫ぶわけではない。それでも目の奥には張りつめた感情が宿り、長く抑え込んできた時間が一気ににじみ出る迫真の演技だった。

 父親からの暴力を受けてきた過去も、長い説明で語られない。それでも、ふとした瞬間に身体がこわばる様子や、相手の動きを一瞬だけ警戒する目つきが差し込まれるたびに、背負ってきた時間の重みが見えてくる。感情を大きく外に出さない人物だからこそ、沈黙が多い。その沈黙を空白にしないのが芋生の芝居であり、タカラという存在が物語の中心に居続けられる理由になっている。

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