ロジャー・ウォーターズ“そのもの”を浴びる極上ライブ 映画館が“バーの席”に変貌する

ロジャー・ウォーターズのライブを極上体験

 それはとりもなおさず、ロジャー個人のなかで、“政治”と“内面”が不可分であることを意味しているのではないか。自身の内面を追求することは、政治問題を追及することであり、他者を幸せにすることが、彼に強い目的意識を与えていたのだと感じられるのである。政治性を前面に出すことに疑問をおぼえるファンもいるかもしれないが、これがロジャー・ウォーターズそのものであり、自然な心情を歌い上げていることが、このライブを通して伝わってくるのだ。

 ロジャー自身によって歌われる歌詞や、観客に語りかける言葉、スクリーンに表示されるメッセージの対訳は、今回上映されるバージョンでは、日本語字幕としてスクリーンに映し出される。近年のコンサート映画では、外国語の歌詞には字幕をつけないケースが多くなってきているが、このような例外的な措置がここでとられたのは、ロジャーの伝えたいものを余すところなく届けたいという配慮からなのだと考えられる。音楽を楽しみながら、同時にそこに込められた意思までをも感じられるのが、本作の大きな特徴である。

 近年のソロ曲「The Bar」は、ライブのなかで2回に分け、ロジャー自身がピアノを弾き語る。兄と妻、そしてボブ・ディランへ捧げたいという、その曲には、「砲弾は何発飛ぶんだ?」という歌詞があり、ディランの名曲「風に吹かれて」にオマージュが捧げられている。この若き日のディランとの時代を超えた連帯には、ロジャーの政治的関心へのルーツを見る思いがする。

 ここでロジャーは、冒頭で「バーに行け」と発信したのとは裏腹に、今度は会場全体を一つの“バー”に見立てる。集まった観客たちはただの消費者ではなく、彼と同じ空間をともにし、身の回りの問題を考え、同じ立場で語り合う仲間たちだというのである。本作の共同監督も務めているロジャーは、われわれ映画の観客にも、もちろんその姿勢で臨んでいるのだろう。

 ダイナミックな映像と音響、知性と覚悟に満ちたクリエイティブ、そして精緻かつ新たな意匠が加えられた演奏。本作『ロジャー・ウォーターズ「ディス・イズ・ノット・ア・ドリル :ライヴ・フロム・プラハ− ザ・ムービー」』は、ロジャーの貴重なライブを体験できる映画作品だ。そして同時に、観客が座った映画館のシートは、ロックスターとファンという垣根を越えて、ロジャー・ウォーターズ個人を目の前で知ることができるバーの席へと変貌するのである。

■公開情報
『ロジャー・ウォーターズ「ディス・イズ・ノット・ア・ドリル :ライヴ・フロム・プラハ− ザ・ムービー」』
7月23日(水)~TOHOシネマズ 日比谷ほか公開
出演:ロジャー・ウォーターズ、ジョナサン・ウィルソン、デイヴ・キルミンスター、ジョン・カリン、ガス・セイファート、ジョーイ・ワロンカー、ロバート・ウォルター、シャネイ・ジョンソン、アマンダ・ベレア、シーマス・ブレイク
監督:ショーン・エヴァンス
鑑賞料金:一律3200円 (税込)
【上映劇場】
北海道:TOHOシネマズ すすきの/7月23日(水)&7月25日(金)※2日限定
東京:TOHOシネマズ 日比谷/7月23日(水)~7月27日(日)
神奈川:ムービル/7月23日(水)&7月27日(日)※2日限定
愛知:109シネマズ名古屋/7月23日(水)&7月27日(日)※2日限定
大阪:TOHOシネマズ 梅田/7月23日(水)~7月27日(日)
京都:TOHOシネマズ 二条/7月23日(水)&7月25日(金)※2日限定
兵庫:109シネマズHAT神戸/7月23日(水)&7月27日(日)※2日限定
広島:広島バルト11/7月23日(水)※1日限定
福岡:T・ジョイ博多/7月23日(水)※1日限定
東京 プレミアムシアター:109シネマズ プレミアム新宿/7月23日(水)~7月27日(日)
※109シネマズプレミアム新宿の鑑賞料金は、A席:一般5,700円(一般会員5,200円)/S席:一般7,700円(一般会員7,200円)
配給:カルチャヴィル合同会社
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/rogerwaters

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